第113話 乗っ取り
ギョウブが法衣の下から出した雲に乗り、パンクとカンザ、それにイヨは、ギョウブが
「ギョウブ様、ありがとうございました。私はマナさんの様子を見てきます」
そう言ってイヨはギョウブの雲が着地する前に飛び降りた。庭に停められていたパンサーの中を覗き、誰もいなくなっているのを確認すると、治療が行われているはずの『マンアン塔』へと向かった。
塔の入り口で竹ぼうきを使って掃除をしていた一人の狸が、イヨに気付いた。塔の中へ向かって、飛び跳ねながら声を上げる。
「イヨ様じゃあ、イヨ様じゃあ! タマモ様の
イヨはその狸の肩をトントンと叩いた。
「シバさん、私昨日から四賢人ですよ」
「おっとと! こりゃ失礼」
シバはそう言って箒の柄で自分の頭をコンと叩いた。
「マメ様はどちらに?」
「例のおなごを連れて塔の四階ですじゃ。もう治療が始まっとります」
塔の四階、一番大きな扉を開けた先にマナが寝かされていた。そして、その手前には体の小さな一人の狸。真っ赤な炎を身にまとい座禅を組んで汗を流している。
マナの胸からはゆらゆらと影が流れ出ており、上空に大きく渦巻く影の球を作り上げていた。
「マメ様」とイヨが歩み寄ると、マメはつむっていた目を片方開けた。
「イヨか。このおなごに影を植え付けたのは、いったいどこの何モンじゃい」
イヨは手ぬぐいでマメの汗を拭きながら答えた。
「連合国陸軍の大将だそうです。確か、ガム・ファントムとか」
「なに、人間か? 人間にここまでの影術を扱うものがおるとは……にわかには信じられんわい」
「どれくらいかかりそうですか」
「そうじゃいの……ワシとシバで代わる代わる吸い出し続けたとしても、ひと月近くかかるやもしれん」
部屋にいるもう一人の狸が言った。
「イヨ様、このおなごと共にまいった者達がスザク殿にてお待ちです。こちらへ」
「みなさん」と呼びながらイヨがスザク殿の中に入ると、ジョウ、リズ、ザハの三人がやってきた。
「イヨさん! 塔にいるマナさん見た?」
「ええ。私が思っていたよりもずっと濃い影が植え付けられていました」
「あたし達がそばにいちゃダメなのか?!」
「まだ危険です。影がある程度薄くならないと、漏れ出た影がみなさんにも少しずつ移ってしまいます」
「薄まるまでどれくらいかかるんだい?」
「さあ……マメ様はひと月ほどと言ってましたけど……。心苦しいとは思いますが、それまでみなさんにできる事はないと思います。ひとまずここで体を休めてください」
*
連合国南西、湾岸都市チャヌにある海軍基地。ここは、海軍の主力戦闘機であるミニワスプと大型輸送機ゲインマスクの三割ほどが集まる航空基地だ。その管制塔が騒がしくなっていた。
「おい、十二番の磁気カタパルトが動いてるぞ」
「えっ、命令も申請も入っていませんよ」
「放送入れて止めさせろ」
磁気カタパルトが並ぶミニワスプとゲインマスクの発着場に、放送が鳴り響く。
「十二番カタパルト、命令、申請ともに出ていない。直ちに停止しなさい。繰り返す……」
ところが、十二番カタパルトは動きを止めることなく一機のミニワスプを打ち出した。
「何やってるんだ! パイロットに連絡しろ」
「おい、一番から五番……いや、三十番まで、全ての磁気カタパルトが動いてるぞ!」
「輸送クレーンも勝手に!」
間もなく、基地にあるミニワスプとゲインマスクが磁気カタパルトから次々と飛び立ち始めた。
「おい! 早くパイロットに通信入れて問いただせ!」
「さっきから通信入れてるんですが……」
管制室の扉が開き、海軍将校が怒鳴り込んできた。
「何をやっているんだ! 遠隔操作を切れ!」
「遠隔操作は使っていません。勝手に動いてるんですよ!」
「そんな馬鹿な話が……ん? 危ない、伏せろ!!」
一機のミニワスプが管制室に向けて機関銃を放った。二百を超える他の機体もそれに続き、機関銃や爆弾で基地を破壊しつくして飛び去って行った。
この日、ほぼ同様の事が連合国中の陸海軍基地で起こった。連合国軍の遠隔・自動操作対応兵器の半数以上が、何者かによって乗っ取られてしまったのである。
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