第十三章 妖の国アキツと、千里眼の伝達人、流星トンボ アカネ

第111話 アキツ到着




 アキツくに、アンド城。イヨが指示を出した場所にパンサーが着陸した。すでにその場には、妖達が大勢集まってきていた。猪に狐に熊、からすなど、様々な獣の姿をしており、人型になっている者はごくわずかだ。


 パンサーの扉が開く。妖達の奥から「邪魔じゃ、どけどけい!」と声が聞こえ、妖達が道を開ける。そこを、狸の姿をした高僧が走ってきた。


「若ァ! よく戻られた」


 クロウがパンサーを降り、狸と握手する。

「ただいま、ギョウブさん。お父上は?」

「御殿で待っておる。早く顔を見せてやりなされ」

 クロウはギョウブに背中をトンと押され、走っていった。続けて降りてきたイヨも、ギョウブに頭を下げた。

「ギョウブ様、ただ今戻りました」

「イヨ、大儀じゃったな。このごつい乗り物と、中に乗っとる者どもは?」


「旅の途中でお会いした方々なのですが……。まず、私と若様がマイ・ザ=バイに爪痕を探しに行った時の事なんですけど、若様の爪痕が御屋形様より小さくてそれじゃだめだって私がつい言っちゃったんですよそれで若様落ち込んじゃって二人で遊園地に行ったんですけどそこで変なリスを見つけてこの人達はそのリスを捕まえたがってたんで若様と一緒に追いかけることにしたんですねほら若様そういうとこあるじゃないですか乗りやすいっていうか面白そうな物にすぐ飛びつくっていうかそういうの棟梁として軽率ですよっていつも私言うんですけど一向に」


「影術じゃな」

 ギョウブはすでにマナの胸元から僅かに漏れる影を捉えていた。イヨはすぐに真剣な顔でうなずく。

「はい。私ではどうにもならないので、マメ様にお願いしたいんですけど……」


「マメならワシの寺におる。早く連れていって診せてやれ。相当に濃い影じゃ。そのおなごの気を完全に吸い込んでおるぞ」

「分かりました」

 イヨはパンサーの中に戻ると、全員に向けて言った。



「マナさんを守るために修行をしたいみなさんは、ここで降りてください。それ以外の方は、マナさんを連れてギョウブ様の寺へ」



 ギョウブは集まった妖達の中から一匹の狸を呼び寄せた。

「チャガ! お主はこの乗り物に乗り、この者達をワシの寺まで案内せい。イヨ、お主はここで降りろ。今宵は四賢人よんけんじんじゃ」




                *




 ヒビカ、ジョイス達三人、パンクはギョウブの指示に従って武器をパンサーに残し、その場に降りて待っていた。

「マナさん、大丈夫かな」

 ヤーニンが不安げな顔でつぶやく。となりのシンシアは普段とおなじおすまし顔だが、やはりどことなく不安げな声で言う。

「私も心配だけど、私達が出来る事は何もない」

「あたしらはここでの修行に集中するよ。二度とマナをあんな目に会わせないように」

 ジョイスがそう言うとパンクが「それと」と続ける。


をぶっ飛ばすためにな。俺達、弱すぎっから……」

 あっ、とパンクは隣に立つヒビカを見た。慌てて付け足す。

「まあヒビカさんは俺らと違って充分強いと思いますけど……」


「いや」とヒビカ。軽くうつむきながら、つぶやくように言った。

「私は、弱くてちっぽけな女だ。どうしようもなく」

 ヒビカらしからぬとことん弱気な言葉に、他の四人は互いに顔を見合わせた。ラグハングルでの負けがこたえたのは、ヒビカも例外ではないのだ。




 ヒビカ達を物珍しそうに見る周りの妖達に向けて、ギョウブがパンパン、と手を叩いた。

「ほれ、いい加減に散れ散れ。お主らがする事は何もないぞ。イヨの就冠式が見たいものは天守の前で待っとれ」


 妖達がいなくなると、ギョウブは法衣の下からするすると敷物を引っ張り出し、足元の砂利の上に広げた。それにヒビカ達を座らせ、自分も座る。


「悪いがまだ建物の中に入れるわけにはいかん。まずは主ら全員、名乗って簡単に身の上を話せ」

 そう言ってギョウブは懐から小さな水晶玉を取り出した。中では火がゆらめいている。


「ヒビカ・メニスフィトです。連合国の北、ロルガシュタット生まれの、元連合国海軍、大将です」

 ギョウブは水晶玉を手の上で転がしながら「うむ。次」とジョイスを指さした。


「ジョイス・テン。生まれはどこか分からないけど、鬼熊の血が流れた半獣人。シャラク傭兵団の団長だよ」

「うむ。次」


「シンシア・ツーアール。生まれは連合国のグリズマール。シャラク傭兵団の狙撃手、パイロット」

「うむ。次」


「ヤーニン・ヴィスです。生まれはシンシアと同じグリズマール。シャラク傭兵団の……えーと、雑用?」

「うむ。次」


「パンク・アルガストニです。生まれは連合国のソーラルブールってとこで、元陸軍少尉です」


 水晶玉が青く光った。ギョウブはそれを顔の前に持ち上げて軽く振ると、懐にしまった。



「ワシは『アキツ四賢人』の一角、秋大寺しゅうだいじ総住職そうじゅうしょくのギョウブじゃ。若とイヨのたっての頼みであるなら、お主らが修行できるよう、他の四賢人にも取り計らってやる」



 敷物の外で立っているイヨが「えっ!」と慌てた。

「ギョウブ様、その四賢人には私も入ってます?」

「安心せい、入っとらん。お主はまだ力不足じゃ」

 そう言ってギョウブは全員を立たせ、敷物を法衣の中にしまった。


「運が良かったな。今日はイヨの就冠式のために、四賢人がこの城に全員揃う。上手くすれば、明日からでも修行が始められるぞ」

 ギョウブはそう言うとトン、と飛び上がった。そばの建物の屋根を蹴り、さらに高く飛ぶと、天守閣へと空を渡っていった。


 それを呆然と眺めるパンク。

「すっげぇ。何だぁあの人」

「『四賢人』と言っていたな……。イヨ、四賢人とは何だ?」

 ヒビカが聞くと、イヨは嬉しそうに説明した。


「アキツの棟梁、ゴロウ様にお仕えする四人の賢者です。この国の東西南北四方を守護することになってるんですけど、だいぶ前に一人お亡くなりになられて、一席開いてたんですよ。そこに……今日、私が!」

「おめでとう」と言うジョイスから拍手が始まり、イヨは顔を赤くしながらお辞儀した。


「私は準備があるのでこれで。天守閣に集まってる人達について行けば、私の就冠式が見られますよ。その後、四賢人のみなさんに修行をお願いしましょう」

 イヨは天守とは別の建物に走り出した。その途中で思い出したように振り返ると、口に手を添えてヒビカ達にこう言い残して行った。




「就冠式で、に会えると思いますよ。楽しみにしててください!」



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