第104話 ハウ・トーゴとランプ




 ハウが作ったクラムチャウダーを三人で食べる。マナの家には皿があまりないため、ハウは小鍋からそのまま食べていた。


「おいしいだろ?」

「……うん」

 食べ物を食べる気分ではない……はずだったのだが、口に入れるとおいしいようで、マナは自分の分をしっかり食べていた。


 コッパはさっさと食べ終わり、ハウをせかしていた。

「ハウ、早く食ってリンゴ切ってくれ。切らないならオイラが丸かじりで食っちまうぞ」

「分かった分かった。もう食べ終わるから」



「コッパ、リンゴ好きなの?」

 コッパののどをくすぐりながらマナがそう聞く。

「大好きだ。最高だよ」

「肉とか魚は?」

「普通だな」

「へえ。カメレオンって何でも食べられるの?」

「他のヤツは知らないけど、オイラは大体何でも食うぞ」


「興味津々って感じだね」

 ハウが切り終えたリンゴをテーブルに置いた。マナが一つとり、コッパに向けて「あーん」と差し出すとコッパはそれを、はっし! と受け止め、自分で持って食べ始めた。


「えー、何それ」

 と笑いながらマナ。コッパもいたずらっぽく笑う。ハウはそんな二人の向かいに座ると、コーヒーの入ったマグカップをマナに差し出した。


「マナ、君はどうしてあんな所にいたんだ?」


 マナは「うーん」と笑顔ながらも質問には答えない。

「よく知らない人にそんな事話すのは……」

「なるほど、じゃあまず俺の話を聞いてくれ。それで君が認めてくれれば教えてもらえるね?」

 マナは待ってましたとばかりに「うん」とうなずく。



 考古学者ハウ・トーゴ。

 生まれは連合国内南西にある自治王国。子供の頃から古代の歴史に興味を持ち、本の虫だった。ほとんどそのまま大きくなり、大学で古代の神話、伝承とアーマーの関わりを研究していた。

 大学での研究に限界を感じ、自ら古代遺跡を巡り、古代のアーマーの調査をするようになる。そして、設計図を見つけたのだ。



「何の設計図?」

「このランプだよ」

 ハウは足元のリュックから、テーブルの上にランプを置いて見せた。中では小さな火の玉がくるくる飛び交っている。

 ハウが部屋の明かりを消すと、柔らかい灯の光が部屋を満たした。


「きれい……」

「そうだろう? これはただの火じゃないんだ。霊獣のともしび


 マナは灯に心を奪われ、目を離さずその動きを追っていた。

「霊獣……」


「古代の神話にある創造主の女神が、世界を作った後に自らの命を分割して作り出した、聖なる獣だよ。まあ、その伝承が正しいかは分かりかねるけど、霊獣は確かに存在する。この灯がその証拠だ」


 ハウの説明を聞きながらも、マナはずっと灯を眺めていた。そんなマナを見て、微笑むハウ。


「実は、この近くにも霊獣がいるはずなんだ。ここで生まれ育った君の力があれば、早く見つけられるかもしれない……手伝ってもらえないかな?」




                 *




 ハウが持ってきた車いす、新しく買った帽子、作ってもらった弁当。準備万端で、マナとハウは家を出た。コッパはマナの左腕のそばに座っている。

「マナ、木の枝で作られたダムがある心当たりは?」


 ハウが広げた地図をのぞくマナ。

「うん。南の、パンマ湖……」

「あ、ここはすでに……」

「と、シジモン湖の間」


「あ、間?!」

 ハウは、自分の地図を目の前に近づけて確認した。湖があるという印や記述はない。


「この辺は、たまに小さい湖があるんだよ。そういうのは地図には載ってない事の方が多いの」

「そういうことか……。いやー、早速助けられたな。よし、じゃあそこに直行だ」

 ハウとマナは二人で並んで出発した。



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