第98話 交戦2
ジョウとリズは、お互い鼻血を出しながらいがみ合っていた。散々殴り合い、貴重な時間を失ってしまった事は二人とも理解している。
ジョウが「チッ」と舌打ちした。
「ここまで時間が経っちまったら仕方ない。小さい門を閉めるぞ」
メモを手にして、門を閉めにかかるジョウ。その後ろから、怒りが治まらないリズが小さい声で言った。
「初めっからそうすりゃいいんだよ。っバカだね」
「はあ?! いい加減にしろよ!」
「いいから早く閉めな!」
「俺はもう嫌だ! お前がやれ!」
まるで殴るようにメモを押し付けるジョウ。そして、その腕を叩くようにメモをむしり取るリズ。
「あんたがさっさとあたしにメモを渡してりゃ、こんな無駄な時間を……」
「うるっせーんだよこのクルクルパー! お前が俺に盾突かなきゃ、今頃大きい門を閉められてたんだ」
「『盾突く』?! あんた何様のつもりだ!」
「少しは自分の責任自覚しろよ!」
「あんたが自覚しろ!!」
激しく言いあいながらも操作を終え、門が閉まっていく。ところが、門が閉まりきろうとしたその時、何者かの手が隙間から入り込み、門の動きを止めた。その異様な光景に、ジョウもリズも絶句する。
門はギシギシと大きな音を立て歪み、最後には弾けるように崩れ落ちた。そこに姿を現したのは、白い髪の毛を光らせる、小柄な一人の将校。ジロリとジョウ達二人を見る。
リズは息を呑んだ。この将校は、軍人時代に資料で見た覚えがあった。
「ハ、ハンゾ・タクラ……!」
ジョウの手を取り、逃げ出そうとした瞬間、リズとジョウは上から何かに押さえつけられ、倒れた。
*
「オラァッ!」
ギン! と音をたて、ジョイスの拳をカルラがハンマーの柄で受け止める。散々岩を撃ったにも関わらず、ジョイスの体は外から見える腕や太ももが少し赤くなっただけで、まともな傷は一つもついていない。
「どうなってんだお前さんの体は?! しかも、この怪力! 俺っちが女に力負けするとは……」
ハンマーをグイグイ押すジョイス。その額と腕から、ざわりと黒い毛が生えてきた。同時に瞳も大きくなり、食いしばっている犬歯も伸びる。
その姿に目を見開いて驚愕するカルラ。
「な……?! そうか、お前さん獣人とのハーフか何かだな?!」
「ヘヘッ、その通り。あたしは東の国の伝承にある『
ジョイスはカルラをどんどん押していき、スピンランナーのそばまで押し返した。
「くそっ……やれ!」
カルラがそう叫ぶと、スピンランナーが後ろの二本の脚で立ち上がり、前脚の残った一本でジョイスを殴りつけた。
カルラから離れた所まで飛ばされたジョイスに、慌ててシンシアとヤーニンがかけよる。スピンランナーはすぐに倒れた。
「驚いたか? こいつは一瞬なら二本脚で立てるのさ」
カルラは大きく振りかぶって地面を叩いた。地鳴りと共に、カルラのハンマーに岩が集まり、家のように巨大な塊になった。
「冥途の土産に教えてやるぜ。俺っちのハンマーは磁力を操る特殊アーマーだ。叩いたものに磁力を持たせて飛ばしたり吸いつけたりできるってわけさ。お前さん、俺っちのハンマーをアーマーで触ったよな?」
「シンシア、ヤーニン、あたしの後ろに入れ!」
立ち上がったジョイスが慌てて二人を自分の後ろにしゃがませる。
「その右手をどこまでも追ってくぜ。このでっかい岩がな!!」
ブオン! と空気が揺れる音と共に、岩が飛んできた。ジョイスはすかさず振りかぶり、渾身の力を込めて拳を放った。
「オラアアアアアアアッ!」
岩は砕けて崩れ、ジョイス達の上に降り注ぎ、小山になった。カルラはそれを見て、心底感心したように「おおー!」と感嘆の声を上げるとともに、拍手までささげた。
「こりゃすげえな。まあ、そんな岩の山にのしかかられちゃ、いくらお前さんでもそう簡単には出てこられねえだろ。あばよ」
カルラはジョイス達が埋まる小山を通り過ぎ、中央塔へと向かって行った。
*
ギル=メハードの周囲にある五つの水の球。その回転は、止まっていた。
「どうした? 海の死神よ。動かないか?」
「くっ……この……っ!」
ヒビカは両手をかざして必死に水の球を動かそうと力を込めている。だが、ピクリとも動かない。それどころか、水の球は少しずつヒビカに近づいていた。
「うっ、ぐ……まさか……お前……!」
水の球は一気にコントロールを押し切り、ヒビカの体を打ちつけて吹き飛ばした。
「お察しの通り、俺も水の霊術使いだ。陸軍人にいるとは夢にも思わなかったか?」
咳き込みながら体を起こすヒビカ。落とした剣を拾おうとするより先に、目の前の光景に愕然とした。
「貴様は五つが限界のようだが、俺はご覧の通りだ」
ギル=メハードの周りには、高速で回転する水の球が何十と浮かんでいる。ヒビカは急いで落とした剣の元へと走り出した。
「遅い」
ギル=メハードが言うが早いか、水の球が一斉にヒビカめがけて飛んだ。
*
塔から一番近い西の門。ザハが気を失って倒れていた。そのそばで、パンクが口から出る血を拭いながら立ち上がる。
「いい加減にしろよ……バンク!」
西の門にやってきた二機のスピンランナー。そこから降りてきたのは、バンクとジェミルだった。そこから始まったバンクとパンクの対決を、ジェミルが薄ら笑いで眺めていた。
「マナさんは中央塔にいるんだろう?」
バンクがパンクにじりじりと近づく。
「教えるわけねぇだろ!」
殴りかかっても受け止められて殴り返される。それの繰り返しだ。パンクは顎を殴られた上に、腹に膝蹴りをくらって、えずきながらその場にうずくまった。
「そんなに必死にこの道を守っているなら、マナさんがいないわけがない。君はつくづく馬鹿だね」
バンクは左手で軽々とパンクの体を持ち上げた。必死に拳を空振りするパンクを「ははは」と小馬鹿にするように笑うと、パンクの脇腹に右の拳を叩きこんだ。
吹き飛んだパンクは勢いよく壁に打ち当たり、気絶して動かなくなった。
「バンク」とジェミルが呼ぶ。
「そいつはここで殺せ。目障りなゴミだ」
「分かりました」
バンクが右腕のツマミを回すと、キュイン、と音をたてて、右手の周りに風が渦巻き始めた。パンクの首を左手で押さえ、右手を近づける。
「動かないで!!」
バンクを止めたその言葉。発したのはマナだった。
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