第97話 交戦1




 ジョウとリズは正門まで走ってやってきた。ここの門は二重になっており、塔に近い方の門は比較的小さめだ。

 リズがその門の脇にかけよった。マナから貰ってきたメモを見ながらボタンを押そうとすると、ジョウが通り抜けながら叫ぶ。

「リズ! 大きい方の門を先に閉めろよ!」

「ダメだ、そっちは閉まるのに時間がかかる! 先にこっちを閉めるんだ!」


「はあ?!」とジョウ。

「相手は兵器を持った軍隊なんだぞ? こんなちっちゃな門だけ閉めたってダメに決まってるだろ! 大きい向こうの門が先だ!」

 ジョウがリズからメモを取り上げた。そのまま走り出そうとするジョウの腕をリズが引っつかむ。


「大きくて頑丈でも、閉めるのが間に合わなかったら意味ないだろ! こっちが先だよ!」

「俺の言う事少しは聞けよ!」

 十三歳も年下のジョウに『言う事を聞け』と言われたリズはカッとなり、ジョウの頬を平手打ちした。


「いってえ……ふざけんな!」

 ジョウも叩き返すと、リズはグーで仕返し。お互いメモを奪おうと、取っ組み合いの喧嘩になってしまった。




               *




 ジョイス達三人がいる東の門、ジャングルから一機のスピンランナーが走ってきていた。


「シンシア……百メートルを切ったら、やりな」

「分かった」


 シンシアはジョウから貰った銃を片手で構えると、猛スピードで近付いてくるスピンランナーの、右前足関節部分を撃ち抜いた。

 右前足が分解し、転ぶように倒れるスピンランナーから、一人の将校が飛び降りるように降りてきた。


「ふぃ~、驚いたぜ。まさか走ってるスピンランナーの関節をたった一発で打ち抜くとはな」


 髭で覆われた顔、ハンマーを背負った大柄な男。レポガニスでヒビカとやりあった事をジョイス達三人は覚えていた。


「カルラ・ジバ……だったよね?」

 ジョイスはアーマーを振って、熱を入れ始めた。ヤーニンもヌンチャクに冷気をまとわせ、シンシアも銃を構える。


「おうおう、死にそうだった黒髪の嬢ちゃんも助かったのか。三人同時相手だと、さすがに引かざるを得ねえ」

 カルラがそう言ったため、シンシアが僅かに銃を下げた。その瞬間


「なわけねえだろ!!」


 素早くカルラがハンマーを振り、先端にくっついていた岩を飛ばしてきた。シンシアに飛んできた岩を、慌ててジョイスが右拳で砕く。


「気ィ抜くんじゃないよ!」

「ごめん!」


 ギン! とカルラのハンマーの音。地面を砕き、岩をハンマーに吸い付けて持ち上げた。


「あれはあんたたちじゃ防げそうにないね。あたしが相手をするから、下がってな」

 ジョイスはシンシアとヤーニンを下がらせると、カルラに向かって歩き出した。


「ヘッ、俺っちを舐めるなよ? 本気を出せば、対戦車ライフル並みの威力で岩を飛ばせる。今回は初めからフルスロットルで行くぜ!!」

 カルラがハンマーを振って打ち出した岩は、言葉通り銃弾のような速度でジョイスの眉間を直撃した。ガクンとジョイスの頭が後ろへのけぞる。

「一発で決まりか! 口ほどにも……ん?」


 にんまり笑いながら頭を前に向けるジョイス。眉間は僅かに赤らんでいるものの、傷はついていない。


「口ほどにもないのは……あんただよ!」


 ジョイスはカルラに突進していった。




                *




 ヒビカは北の門で、やはりスピンランナーから降りてきた一人の将校と対峙していた。細身で背が高く、薄い紫色の髪。レポガニスでも見た覚えがある。


「ギル=メハード・マグ大将だな?」


「貴様は……海の死神、ヒビカ・メニスフィトか。アサガリに陥れられて海軍を去ったと聞いたが、こんなところで会うとはな。俺の邪魔をする気か?」

 そう言いながら、ギル=メハードはゆっくり剣を抜いた。ヒビカはすでに剣を構えているが、ギル=メハードは警戒するそぶりは全くない。ずいぶんと余裕を感じさせる態度だ。


「お前達の目的はマナだろう? ここを通すわけにはいかない」

「フン、元軍人とは言え、海軍の貴様が陸の上でこの俺に勝てると思っているのか?」


 ヒビカは「フフッ」と笑って見せた。

「確かにここは陸の上だ。だが、足元を見ろ」


 二人の足元は泉のように水があふれ、ゆらゆら波打っている。ヒビカは手をかざし、五つの水の球を作り出した。


「水を使える場所ならば、お前に後れはとらん!」


 五つの球が猛スピードで飛んでいった。旋回しながらギル=メハードを打ちまくり、ガードしていた剣を弾き飛ばした。


「どうだ。……大人しく戻るなら、命を取りまではしないぞ」

 ヒビカはそう言いながらチラリと後ろを見た。門が閉まる気配は全くない。


「俺は軍人だぞ。そんなことを言われて引き下がるわけはない事は、貴様なら分かるだろう」


「そうか……それなら仕方ない」

 ヒビカの操る水の球は、高速で回転し始めた。



「威力はさっきの倍以上あるから覚悟しろ。痛い目を見てもらうぞ!」



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