第94話 中央塔 開門




「若様! ありましたよ。これです」

 クロウとイヨがやってきた第四塔。その入り口に生える大きな木の根元に、イヨが爪痕の気配を感じ取った。すぐに巻物を広げて置き、手で印を組んで爪痕を引き出す。


 出てきた赤い爪痕の上から、クロウが青い爪痕を残し、終了。やはり赤い爪痕より小さいものしか残せなかった。

「あー、やっぱり小さいですね。だから今朝、今のうちに気を練ってくださいって言ったのに、ちゃんとやっておかないから……」

 思わずそんな話を始めてしまい、イヨは慌てて口をつぐんだ。しかし、時すでに遅く、クロウの顔色はどんより曇ってしまった。


「若様、いいんですよ! 御屋形様は今の若より三十歳も年上……」

「もう分かったってば!」

 毎度毎度の年齢の話にクロウは辟易としていた。イヨは優しく面倒見もよく、頼りにもなるのだが、どうにも考え足らずにしゃべる癖がある。

 それに、後から優しい言葉をかけられても、最初に出てきた言葉が本音だとクロウにも分かっていた。


「若様、それじゃあ、えっと……何か楽しい事しましょう! 美味しい物食べるとか」

「うん。とりあえず、第四塔の街に入ろう」


 歩き出そうとしたクロウを、イヨが手のひらで制止した。


「ここはダメです。怪しい宗教施設とか、スラム街にテロリストがいたりとか、治安の悪い塔なんで。マナさん達がいる第三塔にむかいましょう」




                *




 ヒビカが作った足場に乗ったヤーニンに先導され、マナ達が歩いていると、獣道のような通路に出てきた。どうやら、ラグハングルの他の塔から中央塔につながる道があったらしい。

 だが、長い間人が通っていなかったようで、地面はでこぼこになっていたりぬかるんでいたり、苔が生えて滑りやすくなっていたりと、非常に歩きづらかった。



「ねえジョウ君、あれ何だか分かる?」

 マナが指さしたのは、道の脇で苔とツタまみれになった鎧だ。巨大な銃を携えており、ゾウが着るのかと思うほど大きい。ここまで来る間にも、ぽつりぽつりと置かれていた。


「あれは多分、古代のアーマーだよ。昔この遺跡を守ってたんじゃないかな?」


「うっそ!」とヤーニンが肩をすくめる。

「アーマーって事は、まだ動くかもしれないって事だよね。襲ってきたりしないの?」


「あり得るよ。ただ、アーマーはあくまで永久機関。本当に永遠に動き続けるわけじゃない。動けてせいぜい二千年くらいかな。古代のアーマーだと、さすがにもう水が切れて動けなくなってると思うよ。分解してみない事にゃ分かんないけど」


 ヒビカは最初に鎧を見た時から、剣に手をかけている。

「警戒は怠らない方がいいだろうな。ヤーニン、お前達三人も、戦闘の心づもりをしておけよ。パンク、お前もだ」

「は、はい……」

 ヒビカの視線にパンクはたじろいだ。自信がないらしい。




 中央塔は高さ十メートル以上の外壁に覆われている。そこに、四つの補助塔から道で繋がれた入り口が四つ。マナ達は、その一つにやってきていた。巨大な門が閉じられており、その脇には数字の描かれたボタンと大きなダイヤルが設置されている。


 マナがそこにかけよった。

「ここで、ピンゴに教えてもらったパスワードを使うのかな?」

「だろうな。おい、ヤーニン」

 コッパが呼ぶと、ヤーニンがパスワードを書き留めたメモを差し出した。マナはそれを受け取ると、ダイヤルに手をかけた。


「586……337……469……回転……」


 マナが番号を打ち込み、ヒビカとジョイスで大きなダイヤルを回す。操作が終わると、大きな門が、きしむような金属音を立てながら動き始めた。

 マナ達は開いていく門の真ん中に駆け寄った。奥にも小さい一つ門があり、同時に開いていく。

 その先の道は、中央塔の入り口に真っすぐつながっていた。


 コッパがマナの肩を揺さぶる。

「マナ、急げ。空から聞こえる音、どんどん大きくなってるぞ」



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