第91話 ヒビカの技の秘密




「マナさん、ここにいる霊獣ってどんなのっすか?」

 パンクは意気揚々とゴンドラへ乗り込んだ。このロープウェイで、ジャングルへと降りる。

「カタツムリだよ。土を耕して柔らかくしたり、撹拌して地下水を巻き上げたりするんだって」

 全員乗り込み、ガクンとゴンドラが動き出した。


「カタツムリ?! へぇ、霊獣って、虫もいるんっすねぇ」

「パンク君」とザハ。

「カタツムリは虫ではなく貝だ」

「えっ!」と驚くパンクに「そんなことも知らないんだ」とジョイス。例によってパンクを馬鹿にし、ヘラヘラ笑っている。


「またそうやってお前はよォ! 俺を馬鹿にするのがそんなに楽しいかぁ?!」

 普段はこんな具合でジョイスとパンク二人で完結するやり取りだが、ここにジョウが入ってきた。

「本当だよな。女はこれだから。つまんない事でへそ曲げだすし」


 二対一になり「うっ」と一歩引いたジョイスの後ろに、リズが立った。

「『女は』? 何言ってるんだよ。あんたこそ、くっっっだらない、つまらない事でいつまでもブリブリ怒ってるだろ。ケツの穴の小さい男だよ全く」

 さらに、ヒビカも加わった。

「ジョウ、私も『女はこれだから』というのは引っかかるな」


 三対二で形勢逆転かと思いきや、ジョウの後ろにザハが立った。

「それもそうだが、私は、そもそもジョイス君の態度がよくなかったと思うよ」


「いい加減にしろ!」

 コッパがびゅうっと膨らんで全員を押しつぶした。関係ないマナ、シンシアにヤーニンも巻き添えだ。




 ラグハングルから地上に降りてきた。この辺り一帯は聞いていた通り、ぬかるんでいたり池のようになっていたりと、地面を何らかの形で水が覆っている。


 マナがゴンドラからパシャリと地面に降りると、コッパが頭を抱えた。

「うっわー、これは厳しいぞ。こんな地面じゃ音も伝えないし臭いも消える。カタツムリなんて、大した音出さないだろうし、オイラの力じゃ探せないかもしれないな」


 マナが「大丈夫」と地図を取り出した。

「そのカタツムリは、決まった葉っぱしか食べないんだって。その葉っぱはジャングルの中で唯一赤いから、高いところから見ればすぐ見つかるらしいよ」


「私が木に登って探すよ」

 ヤーニンが近くの幹に足をかけると、ヒビカがそれを「待て」と止めた。

「その必要はない」


 ヤーニンの足元を流れる水がゆらめき、足場となって上昇しはじめた。「うわっ!」とヤーニンがバランスを取りなおす。

 ヒビカが操る水の足場は、あっという間にジャングルの木々をすり抜け、ヤーニンを木の上まで持ち上げた。


 それをみんなと一緒に見上げながら、リズはヒビカに聞いた。

「昔から気になってたんですけど、ヒビカさんのその力って、何なんですか?」


「これは、『』というものだ。様々ある中で私が扱えるのは、水の霊術だけだがな」

「霊術って?」ジョイスも興味津々な様子でそう聞く。


「見えない精霊を利用して、物を操る術の事だ。元々は獣人……いや、正しくは『あやかし』だったな。彼らが使っていた術で、人間でこれを身につけている者は、あまり多くない。海軍では知る限り私一人だった」



「あったーーー!」



 ヤーニンが上から叫び、それに応じてヒビカが足場を降ろしてきた。ぴょん、と飛び降りるヤーニンの周りに、みんな集まる。


「見つけたよ! 一本だけ赤い葉っぱの木があった!」

「どっち?」とマナが聞くと、ヤーニンはさっと人差し指を持ち上げた。だが、どこも指ささずに、くるりくるりと体を回す。

「あー、えーっと……あ、あれ?」

 ゴン! とジョイスのげんこつ。

「ほんっと馬鹿だよね。見つけて終わりじゃないんだよ! もう一回行っといで」




                *




 霊獣のカタツムリの餌となる葉を茂らす赤い木。その枝の奥に、近付いてくるマナ達の気配を察知している者がいた。


「誰だろう?」

「分かりませんけど、こんなジャングルにわざわざ来る人間なんて、そういないはず……」

「まさか、あの人かな?」


「もしそうなら、をさせてもらわないといけませんね」



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