第86話 帰り道




 マナはウレホンに言われた通り、手近にあった一つをもぎ取り、一口かじる。


「どうだい?」


「……みずみずしくて、甘くて、爽やかな香り。でもちょっと味が薄いかな」


「そうか。この木の果物は、食べる者や時によって味が違うらしい」

「ん……味に何か意味があるの?」

「さあ、どうだろうね。あるかもしれないし、ないかもしれない。僕には分からない。この木に聞いてみないと。でも木とは話ができない」


「この子だけの秘密なんだね。ウレホン、ありがとう。私と孤独を分かち合ってくれて。あなたの踊りも、この果物も、忘れない。あなたの幸せをこれからも願ってるからね」

 マナは、食べ終わると種をその場に落とした。




                *




 ウレホンの背中に乗せてもらい、マナは森を進んでいた。

「マナ、もうすぐ君の友人達が見えてくるはずだ」

「うん。送ってくれてありがとう」

 そう言ってマナはウレホンの後ろ頭をさすった。

「また来てくれ。君は、僕の数少ない友人だ」

「うん。いつか必ず」



 リズとコッパやジョウ達が、草や落ちた枝を踏み鳴らしながら走ってきた。

「マナ、怪我はないか?」

 リズに支えられながら、マナはウレホンから降りた。そこに他のみんなも群がってくる。

「大丈夫。この子、ウレホンって名前なの。たくさんお話しちゃった」

「おい!」と大きな声でウレホンに言ったのはコッパだ。

「お前、マナと話してたって事は、人の言葉が分かるんだよな? マナを連れて行くなら一言言って行けよ! あれじゃ誘拐だぞ!」


「あはは」と笑ったマナをむっ、とコッパが睨み、同時にジョウがマナに言った。

「笑い事じゃないよマナさん」

「あ、うん。ごめんね」

 軽く姿勢を正してそう言う。どうやらマナが思っていた以上に心配をかけてしまったようだ。


「それじゃあ、僕は行くよ」


 ウレホンはマナにそう伝え、回れ右をして歩き出した。

「またね!」マナが手を振る。それを見てパンクが騒ぎ出した。


「えぇっ、あいつこれで行っちゃうんっすかぁ?! おいっ、お前待てよォ!」

 パンクが叫んだところでウレホンには伝わらない。ピョンとひと飛びで倒れた木や岩を飛び越え、あっという間に森へと消えていった。


「あぁクッソぉっ! 俺も背中に乗ってみたかったのにっ!」

 じだんだを踏んで悔しがるパンク。今度はマナも遠慮なく、そして他のみんなも声を出して笑った。




                *




 マナ達が村の近くまで帰ってくると、道の脇で何か大きな箱らしきものが燃えていた。その傍らには、ヒビカの姿がある。


「マナか。鹿には会えたのか?」

「はい……」

「ヒビカさん、これラバロですか?」

 マナよりも早く、リズが聞いた。


「ああ、そうだ」

「あたし手伝います」

 リズがすぐにヒビカの隣に立ち、薪をくべ始めた。さらにその横にパンクとジョイスもかけよる。

「俺のアーマー使えば、超高熱にできますよ。金属以外燃え残しナシでやれます」

「あたしが風を送れば、火の勢いも強くなるはず」


 少し遅れてマナも「何か手伝いましょうか?」と聞くと、珍しくヒビカが笑った。

「そんなに何人もいても、やることはない。山歩きで疲れただろう? 帰って休め」




 ヒビカ達と別れ、マナとコッパ、ジョウ、ザハが村へ向かって坂道を降りていると、村の方角から自転車が登って来るのが見えた。

 もう辺りは暗くなり始めているため、マナは立ち止まって誰が乗っているのか目を凝らした。

「……あ、トロラベさん」


 トロラベは、いつもと同じくたらんと開いた口から荒い息をしながら、マナにたずねた。

「この先に、ヒビカはいますか?」


「いますけど、村で何かあっ」

「ありがとうございます!」

 トロラベはマナの言葉を最後まで聞かずに、大急ぎで自転車をこいで登って行った。


 その姿を見て、ザハが神妙な面持ちで言った。

「何かあったらしいね。……ここは狭い村だ、どうも嫌な予感がする。私はヒビカ君の所に戻ってみるよ」

 歩き出したザハに「俺も」とジョウも続く。


「マナ、オイラ達も行こう」

「うん」



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