第81話 夜を待つ
ヒビカの家の前には、村人たちが集まっていた。熊手やシャベルだけでなく、猟銃を持った人もいる。ヒビカはザハの肩を借りながら、他の全員を離れた所に待たせて家の近くまで歩いてきた。
「ヒビカ、大丈夫かい?」
「酷い怪我だね……」
「あの男はどこだ?!」
口々に話す村人達を安心させようと、ヒビカは笑顔を作って言った。
「あの男を取り押さえるのに牧場を穴だらけにしてしまいましたが、もう大丈夫です」
村人は「ははは」と緩やかに笑い出した。
「こんな姿で牧場の事を先に口にするとはね」
「自分の身体の心配をしなさい」
家の前から村人達を解散させた後、ヒビカの指示でラバロの身体や頭の一部に布を巻き、白くなったアーマーの部分を隠し、家の中へ運び込んだ。
「おいガンマ、奥の部屋から私のベッドを持ってきてくれ」
「えー? ヒビカ、リビングで寝るのかよ」
「ああ。早くしてくれ。パンク、すまないが手伝ってやってくれないか」
暖炉型の暖房アーマーの脇に、ガンマとパンクが運んできたヒビカのベッド。ヒビカはそこに、自分ではなくラバロを寝かせた。
「ヒビカさん、コイツどうするんっすかぁ?」
パンクが眉間にしわを寄せ、乱暴に指さして聞く。ヒビカは椅子にゆっくり座りながら「そうだな……」と考えた。
「……この男に残された時間は長くないだろう。ここにいさせてやる。どうせ他に行ける所などないはずだ」
「マジっすかぁ?! こんなヤツの面倒見るんっすかぁ?!」
デリカシーのないパンクをジョイスが後ろから引っ張って下がらせた。
「やめときなって! 人の人生の最後の時間だよ。あんたが口出しすることじゃないでしょが」
シンシアとヤーニン、それとザハは牧場の復旧に向かい、それについて行こうとしたパンクをジョイスが引き止め、街の修復へとやってきた。すでに村人達ががれきの片づけを始めており、それを手伝う。
「ジョイスちゃん、これ向こうへ持ってってくれ」
「あいよっ」
おじさんが両手で転がしてきた石のブロックを、ジョイスは片手で拾い上げた。そして、まるで積み木のように集積場所に積み上げる。
パンクはその脇で、木の杭の土台をスコップで固めていた。
「お前、ハンパねぇ力持ちだよなぁ。何でジャオなんかに捕まってたんだよ」
褒められたからか「ハハッ」と笑うジョイス。
「相手が影術だとね、猪突猛進じゃ勝てないんだよ。力吸い取られたりするから」
「マジかぁ。影術強ぇなぁ」
近くのおじいさんが「パンク君」と呼んだ。
「その辺の杭はもうちょっと深く打たないとダメだよ。元々埋まってた土の跡が見えるだろう?」
「あ、スンマセン!」
パンクが木槌を持って杭を打とうとすると、ジョイスが片手で杭をグッと押し込んだ。
「あたしが手伝ってやるよ」
パンクが一人で打ってきた杭は全て、打ちが甘かった。二人で協力して深く打ち直していく。同じ事を繰り返す単純作業で、二人の会話が続いていた。
「なあ、どうしてヒビカさん、あんなやつの面倒見んのかなぁ?」
「さあね。あたしにも分かんないよ」
「自分のベッドに寝かせてまでよォ……まさか、あの人アイツに惚れて……」
「ばぁか。絶対違うね」
「なんで分かんだよ」
「女の勘。惚れてるとかそういう俗っぽいハナシじゃないよ」
「じゃあ何だよ」
「だぁから、それはあたしにも分かんないって」
「ねえ、あんた達」
近くで土嚢を運んでいた女の人が、二人に近づいてきた。
「なんっすか? なんか手伝います?」
「いや、そうじゃなくてね。あの男、ヒビカの家にいるの?」
「ああ、います。もう動けなくなって、ヒビカさんが面倒見てる感じですけど」
女の人は土嚢を足元に置き、パンクと話し始めた。
「あの男は誰なの? 知り合い?」
「いえ、俺はよく知らねぇっすけど……。ヒビカさんは前に会った事あるみたいっすよ」
「どうして襲ってきたの?」
「さぁ。ただ、ヒビカさん元軍人っすからね。どっかで恨み買っちゃったのかもしれないっすね。そういうこともある仕事なんっすよ。俺も元軍人だったんで分かるんっすけど」
ジョイスがパンクの肩を痛みが走るほど強く握った。
「パンク、仕事に集中しな!」
*
ヒビカの家の前、リズとマナ、コッパが外に出て話をしていた。
「マナ、どうする? あたしは、ヒビカさんなら信用できると思うけど」
「私も信用できると思う、けど……。リズやジョウ君と違って、ヒビカさんはこの後も一緒にいるわけじゃないから、なんとなく心配で」
「なるほど……。それも一理あるね。コッパ、あんたはどう思う?」
「オイラもマナと同じ意見だ。だから……」
ヒビカのベッドの隣に、大きな水槽が二つ置かれた。ラバロの身体とチューブで繋がれている。
「よし、これで少しは息が楽になるはずだ」
ジョウが汗だくの額を拭って立ち上がった。ラバロのアーマーはほとんど破損しているものの、水を流すことで寿命を少しだけなら伸ばせる。ジョウが自分から提案したものだった。
「ジョウ、手間をかけたな。おいラバロ、お前も礼を言え」
ラバロはゆっくり唇を動かした。
「すま、ねえ……」
「気にするな。じゃあ俺は行くよ。ヒビカさん、またね」
手を振り、ジョウは家から出た。そこには話し合いを終えたマナ達三人。
「ジョウ君、今日の夜頼んだよ!」
いきなりそう言って手を握るマナにきょとんとしながら、ジョウは半ば反射的にうなずいた。
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