第80話 戦闘終了
「シンシア、ヒビカさん! 大丈夫かーっ!」
ジョイスが叫ぶと、白煙の中から「大丈夫!」とシンシアの声。ジョイスは腕のアーマーをいじると、腕を振り回した。大きな風が吹き抜け、煙が飛ばされていく。
煙の出所は、ラバロの身体だった。ヒビカの胸元に突っ込むように、うつ伏せで倒れている。
「うえ……」
ヤーニンが眉をひそめた。ラバロのアーマーになっている両手と両足、そして胸、首と頭の一部が真っ白に変色している。さらに、小さな亀裂が数え切れないほど走っていおり、そこから煙、湯気が出ているのだ。
「ヒビカさん、一体何したんですか?」
ジョイスがそう聞くとヒビカは「いや……」と少し戸惑いながら答えた。
「私は、何もしていない。ラバロの身体が勝手に煙を噴き出したんだ」
「とにかく、コイツどかしましょう」
ジョイスはラバロの足を引っ張り、ヒビカから引き離した。仰向けにして顔を覗き込む。
「う……あ……」
小さく呻き声を上げるのみで、手足はピクリとも動かさない。右目は瞳も真っ白になり、左目も虚ろだ。
「なあ、聴こえる?」
ジョイスの言葉に、ラバロは僅かに視線を動かした。
「か、体……が……」
「動かないか。原因分かる?」
「た、助け……て……く、れ」
「だから原因分かるかって聞いてんでしょ。分からなきゃ助けようないでしょうが」
「分、から……ねえ……」
短い黒髪をぼりぼりと掻くジョイス。
「どうしたもんかねえ」
「シンシア、私を兄の所まで運んでくれ」
「分かった。でも心配しないで」
そう言ってシンシアは、ガンマが倒れている方にヒビカの身体を向けた。やっと追いついてきたマナ達が、すでにガンマを介抱している。ガンマは頭をさすりながら泣いているが、命には別条なさそうだ。
ヒビカは大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。忘れていた体の痛みがギンギンと響いてくるのを我慢しながら、シンシアに引きずられていく。
「ガンマ、怪我は……」
「ヒビカー!」
ヒビカが話しかけようとすると、ガンマはヒビカに抱き着いた。激痛のあまり「ぐうっ!」とヒビカの顔が歪む。
「ヒビカー! 死んだかと思ったぁー!」
「死んではいない……離せ!」
ジョウとパンクがガンマをゆっくり引き離した。ガンマは涙に鼻水、よだれまで垂らして大泣きだ。
「ガンマ、家に帰れ。私も後から行く。もう大丈夫だから心配するな」
ヒビカに言い聞かされ、ガンマは帰っていった。ヒビカは一仕事終わったようにため息をつくと、ザハに肩を借りてラバロの元へと向かった。
「ラバロ、無残な姿だな」
「頼、む……助けて……くれ」
「……ああ。できる事はしてやる」
ヒビカはそう言うと、マナとリズと一緒にガンマを見送っていたジョウを呼びつけた。
「何? ヒビカさん」
「ラバロを見てやってくれ。恐らく、体のアーマーが破損したのだろう」
ジョウは耐熱手袋をはめて、ラバロの胸の表面を引き剥がした。中も真っ白で、煙や湯気を吐いている。
「水の循環系がメチャメチャにやられてるな。素材も変質してるし、どうしようもない」
「直せないのか?」
ヒビカがそう聞くと、ジョウは言いづらそうに口を曲げた。
「無理だね。俺が知ってるどんなアーマーとも違うし、何を使ってどう作ってあるのか、ほとんど分かんねえ」
「そうか……」
ヒビカ達が立ち尽くしている所に、マナとコッパ、リズが歩いてきた。
「ジョウ、その男、どうだ?」
リズがそう言うと、ジョウは自分の身体をそらせてラバロを見せた。
「こんな感じ。もうダメだ」
ラバロの無残な姿を見たマナは「ひっ」と小さな叫び声を上ると、背を向けて離れて行ってしまった。リズがすぐに後を追う。
ヒビカはラバロをもう一度見て少し考えた後、言った。
「すまない、誰かラバロを私の家まで運んでくれないか」
ジョイスが手を挙げ、ラバロを肩に担ぐと歩き出した。ヒビカ達はそれに続いていく。ジョウはマナ達の所へ向かった。
マナは草の上に座り込み、顔を伏せていた。リズは隣に座って、背中に手の平をそえている。
「マナ、あんたの……」
涙のしずくが飛ぶほど激しく首を横に振る。そんなマナの様子を見て、リズはひとまず口をつぐんだ。
「マナさん、どうしたの?」
歩いてきたジョウにリズが聞いた。
「ジョウ、あの男のアーマーは、どうしてああなったんだ? 何もしなくても、勝手にあんな風に……」
「なるわけねえじゃん。壊れるにしたって、体に合わせてただ動くだけのアーマーなら、あんな壊れ方はしない。でもあれは兵器だからな。きっと調子に乗って、相当無理な使い方したんだろ」
マナの顔をコッパがグイッと覗き込んだ。手でポンポンとマナの頭をなでる。
「マナ、大丈夫だ。大丈夫。これから先も、今まで通りだから」
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