第79話 最強の熱アーマー
一秒に四撃を超えるヤーニンの高速ヌンチャクを腕でひたすらガードするラバロ。冷気をまとったヌンチャクで叩かれても、ラバロの腕はびくともしない。
攻撃が途切れた瞬間、ラバロは雄叫びを上げてヤーニンにつかみかかった。
「がああああっ! 邪魔すんじゃねえ!」
すんでの所で身をかわすヤーニン、その後ろから、ジョイスが直径三メートルほどの巨大な岩を持って突進してきた。
「ヤーニン、どいてな!」
ジョイスが岩をラバロに投げつけた。ところが、ラバロは右拳のたった一撃で岩を粉々に砕いた。
「フン、今の俺にはこんなもん効かねえんだよ」
ラバロの右手は真っ赤に光りながらジュウジュウ音を立てている。バラバラと舞う岩の破片はところどころ熔けて、やはり真っ赤だ。
「何あれ、手が熱アーマーってこと?」
ヤーニンはヌンチャクを構えながら後ずさりした。熱アーマーだと、ヤーニンの冷気アーマーでは相性が悪い。
「あたしが相手をしてやる」とジョイスが腕を振った。はめてあるアーマーがヴン、とうなり、徐々に熱を帯びていく。
「テメエも熱アーマーか。だが、俺のは一味
ジョイスは、ラバロが喋る途中で殴りかかった。ガードするラバロの左腕を弾き、右手の熱アーマーと拳で打ち合う。ギン! と金属音が響き、湯気が景色をゆらした。
「あっつぅ! あっつつつ!」
ジョイスは右手首を振り、ピョンピョン跳ねながら飛び退いた。
「ハハハハッ、俺の腕の熱アーマーは世界最強なんだよ! テメエら二人ともぶっ殺してやんぞ! オラァッ!」
ラバロの拳をかわし、大きな石を拾って投げるジョイス。持ち前の怪力によって凄まじい速さで投げつけるものの、ラバロは熱アーマーの腕で一つ一つ全て正確に捉えて弾いた。
「悪ぃな。眼もアーマーなんだよ」
「ねえお姉ちゃん、これって……ヤバい?」
「シンシアが銃を持ってりゃ、楽勝なんだけどね」
「マイ・ザ=バイ以来持ってないよ。ねえ、ヤバいの?」
「取りあえず、あたしの後ろに下がってな」
ジョイスがヤーニンの肩を引っ張って自分の後ろに立たせた。ラバロはそれを見て笑って言う。
「無駄だってんだよ。テメエら二人とも殺す……」
ゴン! と鈍い音が響き、ラバロの身体が押し倒された。何が起こったのかは分からないが、とにかく隙をついてジョイスは突っ込んだ。
「イテエ……何だ?」と頭をさすりながら起き上がったラバロの腹を、ジョイスが正面から殴りつけた。「ゴフッ!」と太い呻き声を漏らし、ラバロが吹き飛ぶ。普通の人間なら気絶するだろうが、ラバロはすぐに立ち上がった。
「ぐっ……テメエら! 全員殺して……」
立ち上がったラバロの顎を、下から丸い何かが打ち上げた。衝撃でラバロはひっくり返って斜面を転がり落ちる。さっきラバロを殴りつけたのもこれだ。
「お姉ちゃん、あれ何?」
ヤーニンに言われるまでもなく、ジョイスは目を凝らして確認した。
「あれは……水の球だ!」
はっ、とヒビカを探すジョイスとヤーニン。斜面をだいぶ下ったところに、シンシアに上半身を支えられながら、手をかざして水を圧縮した球を操っているヒビカがいた。
「テメエ……そんなに今すぐ殺されてえのか!」
ラバロがヒビカに向かって立ち上がるやいなや、ゴン、という鈍い音と共にラバロの身体が揺らぐ。二つの水球がラバロの周りを飛び交いながらタコ殴りにし始めた。
ジョイスは半ば呆然とその光景を眺めていた。
「すっげー。やっぱ強いねあの人……。水さえありゃ、無敵じゃんか」
隣でヤーニンも口をぽかんと開けながらうなずいた。
水の球は回転しながら一つにまとまり、ラバロの胸を打った。その衝撃にラバロの身体は斜面を登るように転がった。
「ぐあああああっ! このアマァアアア!」
ラバロは喉が張り裂けるような叫び声を上げ、立ち上がった。それと同時に腕のツマミをグリグリと一気に回していく。
熱アーマーの右手は赤を通り越して黄色く光り出した。さらに、周りの草がチリチリと焦げ、地面があらわになっていく。
「テメエら全員、跡形もなくこの世から消し去ってやる」
ヒビカが飛ばした水の球は、ラバロが何もせずともジュワッと音を立てて蒸発し、消えてしまった。とんでもない高熱だ。
「ダメだ、水が足りない」
ヒビカがそう言ったのを聞いて、シンシアはあたりを見渡した。牛の水飲み用の小型プールはもう空っぽ。他には川や池どころか、バケツすらない。
「あ、ヤバそうだ。行くよ!」
慌ててかけだすジョイスとヤーニン。だが、とても間に合いそうにない。
「死ね!」
ヒビカの方へ突進してくるラバロ。腕はさらに光を増し、辺りの草はどんどん燃えていく。
「私を置いて逃げろ!」
その言葉を、必死にヒビカを引きずるシンシアは「うるさい!」と一喝。次の瞬間、ボン! という破裂音と共に、白い煙が辺りを覆い尽くした。
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