第78話 ラバロの逆襲




 八百屋、肉屋その他が立ち並ぶ商店街で、大きな砂埃が立っていた。真ん中にはヒビカが倒れている。

 泣きながらヒビカに駆け寄ろうとする末の妹のマコを、通りすがりのおじいさんが「ダメだよ!」と抱きかかえて引き止めていた。


 倒れるヒビカに一人の男が近付き、胸倉をつかんで引き上げた。

「俺がテメエをどれだけ探し回ったか分かるか?」

 ヒビカは咳き込みながら男の顔を見る。金髪で鼻と耳にピアスをつけたこの男。オッカで出会ったラバロに間違いなかった。


「あんときゃ、よくもこの俺様を侮辱してくれたな。覚悟はできてんのか? アァ?!」

「ま……待て」

「だからよ、その上から目線のエラっそうな命令口調が気に入らねえんだよ!」

 ラバロに殴られたヒビカの顔は、ねじれるように横に弾かれ、地面に打ち当たった。

「ぐっ……村の外の牧場まで、連れて行ってくれ」

「あ?」

「末の妹が……見ている」


 ラバロはもう一度ヒビカの胸倉をつかんで引き上げ、激しく揺さぶった。

「テメエ、これから自分がどうなるか、本当に分かってんのか? アァ?!」

「分かってる! 人生最後の頼みだ! 後生だから聞いてくれ、お願いだ! 妹には見せたくない……!」

 苦しそうに顔を歪めながら懇願するヒビカを見て、ラバロはつかんだ胸倉を上まで引っ張り上げて立たせると、半ば引きずるように、ヒビカを村の外へと連れて行った。




               *




「ヒビカの声が聞こえたな。それに……この声は確か、ラバロだ」

 コッパを頭に乗せ、マナは山道を歩いていた。

「本当に? 何を話してるかは分かる?」

「いや。だけど、ズルズル音を立てて引きずられてる。多分ヒビカがな。牧場に向かってるっぽい」

「急がないと!」

 マナが走り出すと、後ろからジョイスが追いついてきた。


「あたしらが先に行く。シンシア、ヤーニン、ショートカットだ! 来い!」


 ジョイスが山道の脇の急斜面に飛び降り、それにシンシアとヤーニンも続いて行った。




                *




 牧場の端にある緩やかな斜面に、ヒビカの身体が打ち当たった。地面がえぐれて、土が舞い上がる。

「ぐ……ゴホッ」


 よろめきながら立ち上がったヒビカを、ラバロが放つ衝撃波が襲った。グバン、と空気が破裂する音と共にヒビカは再び吹き飛ばされ、斜面に打ち当たる。


「こんな感じだったよな? テメエは剣がなきゃできねえが、俺は自分の腕だけで衝撃波が使えんだよ」

 倒れたヒビカにラバロは歩み寄ると、上から衝撃波を放ち、ヒビカを押しつぶした。


「テメエが俺にした事と同じだ。どうだ、気持ちいいか?」

 ヒビカは苦しそうに胸を抱え込んで体をよじった。ラバロはそれを見て「ヘヘッ」と馬鹿にしたように笑うと、ヒビカの頭をつかんで持ち上げ、またしても衝撃波でヒビカを吹き飛ばした。さっきと同じように、斜面から土が舞い上がる。


 ラバロは、腕にあるツマミをいじりながらヒビカに近付いて行く。

「あんまり強いと死んじまうからな。殺すのはたっぷりいたぶってからだ」

 立ち上がれないヒビカを、上から何度も衝撃波で殴りつけると、ラバロはヒビカの頭を踏みつけた。


「思い知っただろ。俺に謝れ」

「悪かっ……た」

 ラバロはヒビカの顔から足をどけると、また衝撃波で殴りつけた。

「いやに素直だな。適当こいてんじゃねーぞ」

「本当だ……私が、悪かった……」

「なんだあ? そのあっさりした態度。気に入らねえ!」

 そう言って拳を構えたラバロの頭を、飛び出てきた男がスコップで叩いた。ガン、と金属音が響く。


「ヒビカに何すんだ、やめろよ! お前誰だよ!」


 ヒビカに戦慄が走った。それは世界にたった一人の、ヒビカの兄。

「ガンマ……! こんなところに来るな!」


 ラバロがすぐにガンマを殴り飛ばした。ガンマは宙を舞って斜面に叩きつけられ、土が舞い上がる。さらに、ラバロはそちらに歩き始めた。


「やめろーっ! 兄に手を出すなーーーっ!」

 叫びながら立ち上がろうともがくが、体中に激痛が走り、身動きが取れない。歩みを止めずにガンマへと近付いて行くラバロを見るヒビカの目に涙が滲んだ時、ビュッと風の音を立てて、ヒビカの上を何かが飛び越えた。


 ヒビカの視線の先に飛び降り、ラバロの方へ走っていくのはジョイスだ。

 ジョイスはラバロの足を後ろからつかむと、体をひねって放り投げた。ラバロはごろごろと緩やかな斜面を転がり落ちていく。さらにジョイスはそれを追いかける。

 ヒビカの頭上を、今度はヤーニンが飛び越えた。ジョイスと共にラバロの方へ走っていく。


「ヒビカさん、大丈夫?」

 シンシアがヒビカの身体を抱き起した。

「お前達、どうしてここに?」

「マナが、ヒビカさんが心配だって言うから……」

「そうか……シンシア、少し下ったところに牛の水飲み場がある。あそこまで私を引っ張ってくれ」

「分かった」

 シンシアはヒビカの指さす先を確認し、大急ぎでヒビカを引きずり始めた。



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