第十章 果物の村ロルガシュタットと、木陰の踊り子、花咲きシカ ウレホン
第73話 ロルガシュタットに集合
「お姉ちゃァーん、私疲れた。ちょっと休もうよー」
ヘロヘロになったヤーニンが、前を歩くジョイスとシンシアに声を上げる。ジョイスは振り返って「うるっさい!」と一喝。
「モタモタしてらんないでしょ。マナ達はもう着いたって連絡があったんだから。もう少し我慢しなって」
「でもさぁー、会ってすぐに何か頼み事された時すでにこんなへばってたら、その方が迷惑じゃない? ねえ休もうよー」
マナ達から連絡を受け、ロルガシュタットに向かうジョイス達三人。今朝から半日近く山を登り続け、村のすぐ手前まで来ていた。
「ダメだって。本当にもう少しだから、頑張りな!」
ヤーニンは「はあっ!」と気に入らなそうに息を吐いて、顔を下げた。歩き出しながらつぶやく。
「ば……」
それを聞きつけたジョイス。また勢いよく振り返る。
「ヤーニン、あんた今何て言った!」
「馬鹿なんて言ってない!」
「言ったでしょ! 聞こえてんだよ!!」
「ごーめーん!!」
気が立っているのは、二人とも疲れているからだ。それが分かっているシンシアは、まずジョイスをなだめた。
「ジョイス、確かに歩き通しだし、仕方ない。少し休ませてあげよう」
「ダメ」とジョイス。ヤーニンの前まで歩いていき、立ち止まった。殴られると思っているらしいヤーニンは、泣きそうな顔でジョイスを睨む。だがジョイスは、くるりと背を向け、体をかがめた。
「おぶさんな」
受け手によっては嫌味と取られてさらに喧嘩するだろうが、ヤーニンは素直に受け取りおぶさった。シンシアも二人のやり取りを見て一安心し、ヤーニンを背負ってくるジョイスを待って、一緒に山を登り続けた。
*
ロルガシュタットは果物の村だ。この山脈では木々たちが気候や地形を度外視し、一年中果物を実らせる。しかも、世界のどんな場所にある果物の木でも、この土地に植えれば必ず実がなるのだ。
ここに集まる百以上の村は、それぞれが『得意とする果物』を持っている。マナ達が降り立った村は『お菓子に使う果物』が得意らしく、村にある大きな果物屋ではお菓子のレシピが載った本もたくさん置かれていた。
「マナ、リンゴのやつ探してくれ」
「うーん。それはいいけど、お菓子は台所がないと作るの難しいよ」
「そうだね。ライターボックスだけで作れるレシピ探そうか」
コッパ、マナ、リズの三人は、店主にヒビカがどこに住んでいるか聞くためにまず買い物をしていた。ジョウとパンク、ザハの三人は、ジョイス達と落ち合うために村の入り口で待機している。
「おいジョウ、向こうに連絡したら、どいつが出ると思う? やっぱジョイスかなぁ?」
「そうだな……そんな気がする。リーダーだし」
パンクは先ほどから通話端末を手にしながら、連絡しようかどうしようか迷っていた。迷う理由はただ一つ。
「ジョイスが出たらヤなんだよなぁ。アイツ俺の事嫌ってっからさぁ。シンシア出てくんねぇかなぁ……」
「じゃあ、ジョイスが出たら俺が話すよ」
じれったくなったジョウは、パンクの手から端末を取り上げた。端末のマイクを自分とパンクの耳の間に持って行き、ボタンを押す。
「もしもし」
シンシアだ! と思ったらしく、パンクがサッと端末を取った。
「もしもし、パンクだ。お前ら……」
「あんたか! 何の用だよ!」
いきなり不機嫌なジョイスの声。端末越しの不明瞭な声でシンシアと勘違いしてしまったのだ。
「い、いや……だから、お前ら今どこかって」
「はぁ?! 近くまで来てるよ! ちゃんとそっち向かってんだから、いちいちそんな確認だけで連絡してくんなっての!!」
怒鳴り声と共に、一方的に通話を切られてしまった。パンクは「チッ」と舌打ちして、ジョウに端末を押し付けた。ジョウはそれを笑いながら受け取る。
「残念だったな。お前、そんなにシンシア好きなの?」
「ん……」
ハッキリ答えないが、真っ赤な顔を見れば分かる。ジョウは「なかなか難しいよな」と言いながら楽しそうに笑っていた。
*
「元海軍大将のヒビカ? 俺は知らないなぁ。でも、うちの店員に『知り合いが軍人やってる』ってのがいるよ。そいつに聞いてみてくれ」
店主はマナ達の質問にそう答え、レジから店の奥に入って店員を呼んだ。
「トロラベ! ちょっと来てくれ」
名前を呼ばれて出てきた店員はやせた若い男だった。黒い髪が、眼鏡をかけた顔の両脇にするりと流れるように落ち、耳まで隠れている。
「何ですか?」
「この人達、元海軍大将のヒビカって人を探してるんだと。お前、軍人の知り合いがいるって言ってたよな」
「あ、はい。まさにそのヒビカです。……この人達は?」
トロラベが顔をこちらに向けたため、マナ達は軽く会釈した。
「私達、少し前にヒビカさんにお世話になったの。会いたいんだけど、どこにいるか知ってますか?」
「ああ……」と口をたらんと開けてうなずくトロラベ。
「僕、彼女と同じ村に住んでるんで、仕事終わったら一緒に行きましょう」
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