第65話 イッランの長、アアマク・マロ
「
「いや、おそらく女神セナに仕えるシャーマンか何かの家系だろうね。選挙で選ばれる行政長官というより、長老、街の顔利きというイメージではないかな」
「へえ、随分原始的だな」
パンク、ザハ、ジョウは三人で横並びに歩いている。氷の壁は音をよく反射し、前を歩いているリズとマナにも話は全部聞こえていた。ジョウの言葉に反応してリズが振り返った。
「おいジョウ、言葉に気を付けな。『原始的』なんて失礼な言い方、街の人達に気を悪くされるよ」
「あ、ごめん」
マナには、ジョウの言いたいことも分からないではない。この街は道を歩いていても人通りはほとんどなく、出会う住人はかなり奇異の目でこちらを見てくる。外の街との関係は持たず、古くからの暮らしを守り続けながら細々と暮らしているのだ。
長の家の扉は、他の家々の扉と違い、鮮やかな刺繍の施された布が取り付けられていた。マナがそれをノックすると、奥から高齢の女性と思われる声が聞こえてきた。
「旅の人? どうぞ入ってください」
マナが「失礼します」と扉を開けると、廊下もなしにすぐ広い部屋が現れた。中央には囲炉裏を模した、暖をとるためのアンティークの熱アーマー。脇の壁際にはがっしりとした若い男が、角材を握って立っている。
そして、囲炉裏のさらに奥の台所に、声の主の女性がいた。
「ほらほら座って」
その女性の手が示す座布団のような敷物に、マナ達は座った。囲炉裏をはさんで向かい側にその女性が座り、飲み物をマナ達に手渡してくれた。
「この街には伝声管が張り巡らされてるからね。来たことは聞いてたよ。さて、あなた達、こんなところに何をしに来たの?」
マナは改めて姿勢を正し、お辞儀をした。
「突然お邪魔してすいません。私の名前はマナといいます。ここには、霊獣のペンギンを探しに来ました」
女性はうんうんとうなずいた。
「そんなところだろうと思ってたよ。私はこの街の
マロが温かい飲み物をマナ達に回してくれた。全員お礼を言って受け取る。角材を握ったままのサクマは、それをずっと見ているだけで、何も話さない。
「マロさん『そんなことだろう』って、ペンギンの事をご存じなんですか?」
マナからの質問にマロは首を横に振った。
「知らないよ。以前訪ねてきた人間が、『ここにいるはずだ』って騒いでただけで。こんな辺境に自分達からやってくるってことは、どうせ同じ理由だろうってね」
「えっ!」と驚くマナ。
「その人の名前は分かりますか?」
「いやー、忘れちゃったね。サクマ、覚えてるかい?」
サクマが初めて声を出し「いえ」と答えた。
「そうですか……。その人は、ペンギンとは会えなかったんですか?」
「うん」とうなずくマロ。
「何だか街中散々探し回ってたけどね。元々いないもんを見つけようなんて無理な話だよ。肩を落として帰って行ったさ。あんた達も、それが目的なら探すだけ無駄だよ。悪いこと言わないから、一休みしたら帰った方がいい」
マナは視線を下げて黙ってしまった。その様子を見て、リズがマロに言った。
「マロさん、あたし達は帰るためにも飛行機の整備とか、時間が必要なんですよ。その間は、この街にお邪魔させてもらえませんか。あたし達に手伝えることがあったら、何でもしますから」
最後に「いいよな?」とマナに確認。マナは「もちろん」とうなずいた。マロはゆっくり息を吐きながら「うーん」と考え、言った。
「まあ、しょうがないね。手伝ってもらえるなら、お願いしようか」
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