第50話 ヒビカvsカルラ




 カルラの投げる岩をかわし、ヒビカはガンボールの陰に飛び込んだ。


「ヘヘッ! 海の死神様も、陸にあがりゃあただの人だな。水をまとってないお前さんの衝撃波じゃ、俺っちの岩を防ぐのは無理だ。いくら隠れても、攻撃手段がなきゃ俺っちは倒せねえぞ!」


 カルラがまたハンマーを打ち下ろして地面を砕く。その直後、空気が割れるようなヒビカの衝撃波の音と同時に、ガンボールがカルラに向かって飛んできた。

 慌ててカルラが岩を投げ、打ち落とす。


「あっぶねえ! 球形のガンボールを、衝撃波だけで自分の思った方向に飛ばせるとは、とんでもねえ奴だな」


 カルラがそう言うなり、次のガンボールが飛んできた。そしてさらに次。

 絶え間なく飛んでくるガンボールをさばききれず、カルラはついにガンボールの下敷きになった。

「うぐぐ……くっそ!」


 カルラが腕につけたコントローラーに向かって「離れろ!」と命令すると、ガンボールは一機残らずカルラから遠ざかった。ヒビカの姿はない。


「また隠れんぼか? ガンボールを俺っちにぶつけたって、大したダメージにはならねえ。お次はどうする?」

 そう言いながらカルラはガンボールの足の隙間に目を凝らした。隠れているはずのヒビカの足を探す。

 だが、見つからない。

「……ん?」


 グバァン! と空気が張り裂ける音。飛び上がったヒビカの衝撃波で、カルラは地面に押し付けられた。

 ヒビカはカルラの上に乗り、剣を背中に突き立てた。


 これで勝負がついたと思われたその時、一機のガンボールの機関銃がヒビカに銃撃をあびせかけた。

「うぐっ!」

 弾に左肩をえぐられたヒビカは体勢を崩す。そこをさらにカルラのハンマーが襲った。


 ヒビカは近くに建っている家の壁に打ち付けられて倒れた。この街の家の造りは簡素で壁ももろい。あたりに細かい土や砂埃が舞い上がる。

 カルラは体についた石や砂を払って言った。

「ふう。悪いなヒビカさんよ。一対一とは言ったから、俺っちの負けってことにはなるな。だが、戦争ってのはこういうこった。若いお前さんは知らなかっただろうがな」


 ヒビカは、殴られた拍子に離してしまった自分の剣を探した。カルラの足元だ。どうやってあそこまで行く?


 ギン! とカルラのハンマーが地面を叩いた。砕けた大きな石がハンマーに吸い付く。



「お前さんの死因、『ジャオの手下にやられて討ち死に』ってことにしといてやるよ!」



 カルラがハンマーを振り、尖った岩がヒビカの顔めがけて飛んできた。

 次の瞬間、重い破裂音とともに、ヒビカの目の前で岩が粉々に砕けた。破片が顔にコツコツとあたり、腕で防ぐ。


 ヒビカが腕を降ろすと、前には冷気をまとったヌンチャクを構えたヤーニンが立っていた。

「へえ!」と感心するカルラ。


「冷気アーマーのヌンチャク……そんなもんで岩を砕くとはねえ。お前さんもなかなかやるじゃねえか。だが、一対一の勝負に割って入るってのは、ちょっと野暮じゃねえかい?」


「先にガンボール使ったのはあなたでしょっ!」

 カルラの次の攻撃に備え、ヤーニンの足にはジリッと力が入る。


「あー、まあ、そりゃそうだな、うん。野暮は取り消そう。だがな、お前さんが割って入るなら俺っちも、もう一人で闘う理由は全くねえ」


 そう言ってカルラは、腕のコントローラーをいじった。百機を超えるガンボールが一斉に足を伸ばし、格納していた機関銃付きの腕を引き出した。


「シンシア、ザハ、カンザ! お前たちは逃げろ!!」

 ヒビカの叫びに反応するように、ガンボール達が機関銃を構えた。


 ところが次の瞬間、上から巨大な黒い拳が振り下ろされ、数十機のガンボールが叩き潰された。そして、その衝撃音がかき消されるほど凄まじい咆哮が空に鳴り響く。


「ギョロロロロロロロオオオオ!!」

「貴様ぁアァあァっ!!」


 先程より二回りは巨大な漆黒。首元には、血まみれになり、右腕をだらんと下げたメイの姿。隈取を施した鬼のような顔で、カルラを睨み付けている。


 漆黒は周りの家々をなぎ倒しながら振り下ろした二度目の拳で、ガンボールをさらに十機ほど叩き潰した。


「チッ! テメェ、逃げたんじゃなかったのか!」

 カルラは漆黒の拳を飛び退いてかわすと、漆黒の首元にいるメイに、ハンマーで岩を投げつけた。

 漆黒は腕を盾のような形に変えて岩をガードし、また拳で殴りつける。


「ヒビカ、ほら受け取れ!」

 カンザが隙をついてヒビカの剣を拾い上げ、ヒビカに投げた。受け取ったヒビカは、すぐにカルラに衝撃波を放つ。

 カルラは吹き飛んでガンボール達の中に放り込まれた。


「いてて。くそっ、油断したぜ。エラスモ七番、九番、こっちに来い!」

 カルラが腕のコントローラーに命令したところで、漆黒の拳が落ちてきた。カルラ自身はは何とかかわしたものの、ガンボールはこれで半分以上がオシャカだ。



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