第49話 陸軍大将
「よけろ!」
ヒビカの声でシンシア達もパッと散った。エラスモの放った砲弾は階段に着弾し、マナとコッパ、パンクとバンクの四人は、ヒビカ達と分断されてしまった。
「何するの! やめて!」
マナがそう叫んでも、エラスモが止まるはずはない。パンクはさらに手を強く引いた。
「ヒビカさんがいればダイジョブっすよ! 俺らはとにかく上へ行きましょう!」
「シンシア、ヤーニン、私から離れるなよ! 陸軍に見つかれば間違いなく殺される!」
ヒビカは剣で二発目の砲弾を弾いた。
プログラムに基づいて動いているエラスモが、海軍の軍服を着ているヒビカに発砲する可能性は
・エラスモに搭載されている識別カメラが故障し、海軍の軍服を識別できない
・プログラムのミスにより、海軍の軍服が除外対象になっていない
そして
・海軍の軍服を着た者も撃て、と命令されている
三発目が飛んできた。また剣で同じように弾く。エラスモの砲撃が止む気配はない。
「逃げるぞ!」そう言って別の道に走り込もうとしたが、道の先から何機ものガンボールがこちらに向かってきていた。
「おいヒビカ大将、どうなってんだよ。どうして俺達が狙われるんだ」
カンザはそう言いながら、シンシアを自分の方に引き寄せ、その陰に隠れた。ザハとヤーニンもそのそばに集まり、全員が一ヶ所に固まった。すでに周りはガンボールだらけだ。
ガンボールの奥から、背中にハンマーを背負った一人の軍人が現れた。
「海の死神様か。海軍大将……名前は確か、ヒビカだったな?」
大柄で恰幅のいいその男は、もみあげから顔の下半分を覆う髭を手のひらでなでた。
ヒビカは構えた剣を降ろさなかった。
「陸軍四将の一角、カルラ・ジバ大将殿だな? 我々はこの谷を出るところだ。ガンボールとエラスモを下げてもらおう」
カルラ大将は返事もせずに髭をなでている。
「ランプを持ったお嬢は逃がしちまったか。……んん? 後ろにいるのは、何とか傭兵団のジョイスとシンシア、それにヤーニンか? ヒビカ大将さんよ。取りあえずそいつら、こっちに渡せ」
「断る。海軍での取り調べが先だ」
「じゃあよ」と言いながら、カルラは背中のハンマーを外した。
それを地面に打ち下ろすと、ギン! と音が鳴り、地面がひび割れてハンマーがめり込んだ。さらに、砕けた岩の破片が、ハンマーに引き寄せられてくっついていく。
「ここは一つ、俺っちと一対一で勝負してみねえかい? 俺が勝ったらそいつらはもらう。あんたが勝ったら、『逃げるチャンス』をやるよ」
カルラは、ヒビカの返事を待たずに、ハンマーを持ち上げてバットのようにスイングした。すると、ハンマーの先にくっついた岩が弾丸のようにヒビカに飛んできた。
ヒビカは何とか剣でガードし、岩を砕いた。剣を握る手が痺れるほど重い。
「勝敗はどう決めるつもりだ?」
「ヘヘッ。そんなもん……」
カルラはもう一発岩を放った。ヒビカはまた剣で弾いたが、飛んでくる岩の陰に隠れて飛び込んできたカルラが、ハンマーで殴りかかってきた。
「生死に決まってんだろうが!」
*
階段を駆け上がり、坂を上り、また階段を駆け上がり……マナ達はついに、崖の上に到達した。
息を整えながら街を見下ろす。あちこちから火の手が上がり、真っ黒な煙が立ち上っている。たまに光がまたたいたり、爆発音が聞こえてくるが、人の声はもう聞こえない。ルクスルーチェの根っこは砕かれ、切り刻まれ、燃やされていた。
「ハァ、ハァ……さっきのは、何だったんだぁ? 誤爆ってことだよな?」
汗を袖で拭いながらパンクがそう言った。
「僕達は陸軍の軍服を着ているから、本来はエラスモとガンボールから狙われることはないはずだけど……」
バンクはハンカチを出して、同じく汗を拭いている。
「でも、間違いなく撃ってきたじゃねぇかよ」
「うん、そうだね……」
マナは誤爆のことより、ヒビカ達が気になっていた。ジャオの話を鵜呑みにするわけではないが、陸軍少尉のパンクとバンクは、心の底でランプを狙っているのかもしれない。
ヒビカに早く来てほしい。もし突然、両脇の陸軍少尉が襲ってきたら、まともに抵抗できない。ひょっとしたら、一秒先、自分は二人のどちらかに銃で撃たれて死ぬかもしれない。
「マナ」
コッパに呼ばれてマナはハッと我に返った。
「キャタピラ音が聞こえる。こっちに来てるぞ」
マナは周囲を確認した。まだエラスモの姿は見えないが、ここは岩がゴツゴツと突き出していて、天然の迷路のようになっている。岩陰から突然現れるかもしれない。
逃げようにも、姿が見えない段階では、どちらに逃げたらいいのか分からない。
「あ、本当だ。僕にも聞こえてきました」
「え、マジィ?! 俺聞こえねぇけど……あ、今聞こえたかも!」
間もなく、岩の間を通り抜け、ゆっくりとエラスモが現れた。扉から飛び降りる三人の将校。あれは、マイ・ザ=バイで見た四人のうちの三人だ。
エラスモは速度を落とし、止まった。一番大きな扉がゆっくり開き、降りてきたのは一人の男。
「げ、元帥閣下!」
バンクが驚きながら敬礼。パンクも慌てて敬礼した。
「うむ、ご苦労。 マナさん」
ジェミルは右手を差し出した。
「ランプを」
前置き一切無しで飛び出したその言葉で、マナは恐怖に襲われた。交渉などしないし、こちらの話を聞く必要もない。ただランプを渡させればいい。そういうことだ。
「ランプ?」とパンク。
「マナさんが今、抱きかかえてる、そのランプっすか?」
「これは……マナさんのものでは……?」
バンクも、訳が分からないといった様子だ。ジェミルは、パンクとバンクにチラリと目を向けた後、またマナに視線を戻した。
「マナさん、どうしてこんな谷に来たのですか? 世界最大の犯罪組織の本拠地ですよ?」
何故か急にそんな質問をされマナはとっさには答えられず、黙りこんだ。
「ひょっとして、そのランプをジャオに売るつもりだったのでは?」
ジェミルの意図に気付き、マナはさらなる恐怖で身を凍らせた。これは、マナに聞かせるための言葉ではない。
「我々に預けることを不自然なまでに拒んでいましたが、そういうことだったのですね……残念です」
「……マナさん……」
バンクがゆっくり振り返った。パンクも振り返り、こちらを見つめている。マナはやっとの思いで首を横に振った。
「違う……私は、ジャオとは何も関係……」
ジェミルが、マナを遮るようにパンクとバンクに「おい」と呼びかけた。
「その女を捕らえろ。ランプを持ってこい」
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