第45話 連合国首都ジャンガイにて/レポガニスへ




 連合国首都ジャンガイ。中央政府総理大臣アードボルトと副総理リオラは、総理官邸の一室で、とある大臣の到着を待っていた。


「リオラ。君は、彼は把握しいると思うかい? この一件を」

 アードボルトはイスで小さく身を縮めながら言った。

「していない、と言うでしょうね。実際には把握していないなどありえないけど」


「そうだよねえ。どうしたらいいだろうか」

 アードボルトはおでこに手のひらを当てて頭をもたげた。与党の中で長年かけてのし上がり、ついに総理大臣の座についたはずのこの男は、話すことがどうにも頼りない。彼がある程度の支持率を維持しつつ安定した政権運営ができるのは、リオラのおかげだ。


 連合国の歴史上初めての女性の副総理大臣。前例のない民間からの副総理抜擢に、与党内は荒れに荒れたが、アードボルトの粘り強い交渉によって、なんとか登用することができた。


「彼は国防大臣に不適格でしょう。裏で何をしているか分からないんだから。カザマ議員かモルファ議員あたりに交代させた方がいいと何度も言ってるのに」

 アードボルトとリオラは長年の友人だ。公の場以外ではお互い砕けたため口で話している。


「ガラ国防相は、君の登用と引き換えに連立与党から押し込まれたんだ。不祥事か何かがない限り、交代させるわけにはいかない」


 部屋の扉が開き、小柄でパーマをかけた髪型の男が入ってきた。人より大きめの顔は、ニコニコ笑っている。

「どうも。お呼びですか」

「ガラ国防相、こちらをご覧に」

 リオラが一枚の写真を渡す。


「はあ、これは?」

「ジェミル陸軍元帥です。彼の隣に写っているのは、S級テロリスト認定を受けているジャオの側近です。ご存知でしょう?」

「ええ、ええ。もちろん。しかしなぜ二人が共に?」


「それが分からないのです。しかし、年に何度も密会をしていると。今週の『週刊未来現像』に載ることになっているんです。把握しておられましたか?」

「いえ、全く。ええと、総理。総理は私に何をせよと?」


「あ、ああ」とうろたえ気味のアードボルト。

「いや、やはりね、ジェミル元帥は生粋の軍人だ。マイ・ザ=バイでの作戦もかなり荒っぽい。議員や国民からも、シビリアンコントロールはきちんと効いているのかという不安の声がある。だからその、彼の事をね……えー、きちんと管理するようにと。この写真のことを彼に問いただして、ひとまずそれを、私に報告してくれ」


「ええ、ええ。なるほど。分かりました」

 ガラ国防相はそう言って出て行った。


「ジェミルと盟友と言われるほど、仲がいいからね彼は。心配。きちんと監視してないと」

 とリオラ。


「うん……そうだねえ」

 そう言いながら困り果てた様子で椅子にもたれるアードボルト。彼を「頼りになる政治家」と思っているのは、おそらく世界中でリオラだけだろう。




                *




 マナ達は目の前にレポガニスを捉えていた。レポガニスは、コーラドのドーナツ谷と違い、かなり緩やかな崖によって形成されている。しかも、谷の底への入り口らしき道まで見える。


「この谷の底には、街があるの。私達はいつも、谷の反対側にあるジャオの砦へ直通している道から降りてた」

 シンシアがレポガニスの説明をするのを、ヒビカが真剣な顔で聞いていた。少し離れた所で、マナとコッパ、パンク、バンクが話している。


「ねえコッパ。さっきのイグアナとサソリ、話が通じないとか、支離滅裂って言ってたけど、どんなこと言ってたの?」

「弟の仇、とか、この花畑を荒らすな、とか」


「ハァ? 仇って何だよ。花畑なんかなかったじゃねぇかよ。バンク、お前見たか?」

「いや、ずっと荒れ地だったよ」


 コッパが言った。

「だから支離滅裂なんだよ。どいつもこいつもそんな感じだった。オイラの言うことなんか、何も通じない」


 三人にマナが言った。

「きっと、あの子達は幻を見せられてたんだよ」

「幻ぃ? 誰にっすか?」とパンク。

「ここにいる霊獣、常紅薔薇に」

「ジョークバラってなんっすか?」

「常にあかい。春夏秋冬、ずっと紅い薔薇ってこと。人に幻を見せるって言われてるの」


 コッパが「変だな」と頭をかいた。

「動物を操ってオイラ達を襲わせたってことになるけど、霊獣がそんなことするかな?」

「うん。私もおかしいと思うよ。パルガヴァーラと違って、子育てなんかしないはずだし、初めからいきなり攻撃するなんて。でも他に考えられないもん」


「マナ」

 ヒビカが話を終えてやってきた。

「私とシンシア、ヤーニンでジャオの砦へ向かう。マナ達はこのまま街に下りて霊獣を探すだろう? 終わったら、今朝の滝で落ち合おう。バイクを隠した場所は分かるな?」


「え……別々に行くの?」

「当然だ。ジャオの砦には兵士や影ウサギがいる。お前とザハ、カンザを守り切れない。街で霊獣を探すだけなら、タブカとパンク、バンクの三人いれば大丈夫だろう」


 バンクがマナの肩に手を置いた。微妙な震えから、緊張しながらも勇気を振り絞って、というのがマナにも伝わってくる。

「マ、マナさん、僕達が全力でお守りしますから。あっ、安心してください」

 後ろではパンクがクスクス笑っていた。



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