第43話 出所不明の車に乗って




 リルマの駅。マナ達はここで降りるが、クロウとイヨは別の街へ向かうために乗り換える。ここでお別れだ。


「それじゃあ、僕達はこれで。マイ・ザ=バイではありがとうございました」

 クロウはそう言って頭を下げた。マナが「とんでもない」と手を振る。

「こちらこそ、トトカリとの鬼ごっこ、一緒にやってくれてありがとう。また会おうね。いつかアキツ国にも行くから」


 イヨはカンザと話をしていた。

「カンザさん、アキツ国の隣のトンギャで、王宮付きの医師をしてるって言ってましたよね」

「ん、ああ」

「このままマナさん達と旅を続けるんですか?」

「少なくとも、レポガニスの次の目的地、盃の湖ミュンシャまではな。そこから先は、気分次第だ。トンギャにいつ帰るかは、はっきりしないな」


「なに?」と言ったのはザハ。

「気分次第で、そこから先もついてくるかもしれないということかい? そんな話は聞いていないよ!」

「いいじゃねえかよ。旅は道連れって言うだろ」

 イヨが「とにかく」と二人の話を止めた。

「若様と私も、爪痕を探しながら旅を続けるので、ひょっとしたら、またお会いするかもしれません。その時はまた、ゆっくりお互いの旅の話でもしましょう」




 クロウ達と別れ、マナ達はレポガニスに行くための車を借りようと、街を歩き回っていた。


「ご主人、車をお借りしたいのだが」

 ヒビカがそう言うと、店主は不思議そうな顔をした。

「もちろん、お貸しできますが……軍人さんですよね? どうしてわざわざ店で車を借りるんですか?」

「レポガニスへ行きたいものでね」

 店主は「ええっ!」と大声で驚いた。

「レポガニス?! それだとちょっとお貸しすることは……」


 レポガニス周辺は、連合国と隣国との間で領土紛争が起こっている地域。軍用機で向かったら大騒ぎになる。しかし、民間の店もそんな場所に店の車を行かせたくはないのだ。


「さて……どうしたものか」

 店を出ると、ヒビカがそう言って植え込みの枠の上に座り込んだ。もう街の外れで、店はない。


「私達が用意する」

 シンシアがそう言った。ヤーニンも「うん」とうなずく。


「……どうやってです?」

 そう聞いたのはバンクだ。かなり厳しい顔をしている。


「それは話さない。でも用意する。明日の朝、この街の北四キロ先の滝で会いましょう」

 そう言うと、シンシアはヤーニンを連れて歩き出した。


「まっ、待て! ちゃんと答えろ!」

 二人を追おうとするバンクの肩を、ヒビカが強くつかんだ。

「レポガニスへは車でないととても行けない。二人にまかせよう」

 バンクはやはり納得できない様子だったが、タブカも「仕方ないよ」と言ったため、黙って引きさがった。




                *




 翌朝、リルマの北四キロの滝には、軽トラックが止まっていた。荷台には、楕円型のボディをしたバイク三台が積まれている。


「大型の車は無理だった。悪いけど、四つのグループに分けて行く」

「誰か一人はトラックの荷台だよ」


 シンシアとヤーニンがどうやって車とバイクを手に入れたのかは分からないが、どちらにもナンバープレートは付いていなかった。




「あ、あの、マナさん、ちょっとお聞きしたいことがあるんです」

「なあに?」


 草木がほとんどない荒れ地をレポガニスに向けて走るバイク。マナは運転するバンクに後ろから抱き着いて、コッパと三人でバイクに乗っていた。

「どうして、ジョイスを助けようと思ったんですか? あなたを襲った人間なのに。憎くはないんですか?」

「憎い……うーん、憎いかどうかは、自分でもよく分からないな。でも、目の前に泣きながら、誰かを助けてって言ってる人がいたら、やっぱり何かしてあげたいじゃない?」

「そ、それは、犯罪者でもですか?」


「うん……あんまり関係ないかな。私は、あの三人って成り行きで犯罪者になっただけのような気がするの。極悪人みたいには思えなくて」

「ですけど、どんな理由でも犯罪は犯罪です。他の人と同じように助けるのは、その、僕には違和感があるんですが」

「他の人?」

「犯罪者じゃない人です」

「……罪なんて、誰だって犯してるよ」

「法律の話です。社会の人々が、幸せになるために作ったルールですよ? それを破る犯罪者です」

 責めるような口ぶりに、マナは少したじろいだが、一呼吸おいてから言った。


「罰するべき罪は、法律で決められたものだけじゃないよ。それに、犯罪者なら法律で裁かないと。ジョイスは、このままだと別の犯罪者に裁判なしで殺されるんだよ?」


「つまりマナさんは、自分の仲間を命の危険にさらして犯罪者を助けに行くのが、正しいことだと?」


 バンクの言葉がマナの胸にグサッと刺さった。何も言い返せないでいると、バンクは「すいません」と謝った。


「あ、あの、誤解しないでください。僕はマナさんを責めるつもりはないんです。でも、マナさんがこれから先、仲間に恵まれるかが不安というか……危険な旅をするうちに、仲間が離れて、マナさんが……一人ぼっちになってしまうのが心配で、つい……」

「そっか。ありがとう」

「あっ、あの、もしレポガニスでの事がうまくいって、マナさんの護衛が必要なくなったら、ぼっ、僕も改めて、マナさんの旅に、ど、同行してもいいですか? マナさんが一人ぼっちになっても、僕はついていきます」


 しがみつくマナの腕の奥で、バンクの胸はドキドキと鼓動している。マナは自分に向けられた好意に、すでに気付いていた。

「でも、バンクは護衛任務が終わっても、他のお仕事あるでしょ?」

「マナさんのためなら、僕は、軍隊を辞めます」


「うん……護衛が終っても、暫くはお仕事続けなよ。それでもどうしても私と一緒に行きたければ、その時私の所に来て。待ってるから」



 徐々に霧が出てきて、周囲百メートル程度しか見えなくなってきた。スピードを落としながら走り続けていると、突然、マナ達の周りにおどろおどろしい咆哮が鳴り響いた。


「グロロロロロロ!」


 漆黒とはまた違う生々しい鳴き声だ。聞こえた瞬間、マナ達の隣を走るヒビカの「気を付けろ!」という叫び声。コッパもマナの耳元でつぶやく。


「多分、ヒドラ系の爬虫類だ。今のは警戒して仲間を呼ぶ声だな。あいつらは、漆黒ほど強力じゃないが火を吐くぞ。オイラが話してみるから、見えたら近づけ」



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