第40話 飛行戦艦デメバード出現




「キャッ! 気を付けてよ!」

「おい、危ないだろ!」

「うわわっ、殺す気か!」

「あーん、ママー!」


 クロウとイヨが、周りの人にぶつかったり蹴っつまづいたりしながらトトカリを追いかけているうちに、遊園地から客が逃げ始めていた。


 一人乗りの小型ジェットコースターのレールの上を、トトカリが駆けていく。クロウはトトカリを追いかけて、上り坂になっているトンネルの中に飛び込んで登り始めた。

 ところが、上方に見えるぽっかりと光が差すトンネルの出口で、トトカリはどこから持ってきたのか、トンネルとほとんど同じ大きさのドラム缶を置き、上に乗っかっていた。

 トン。とトトカリが跳ねると、ドラム缶がクロウの方へ転がり落ちてきた。


「うわーっ!」

 慌ててUターンするクロウ。しかし、トンネルの出口付近ではドラム缶に気付いていないイヨが、登ってこようとしていた。

「イヨ戻って!」

「えっ、どうしたんですか?」


 イヨがドラム缶に気付くのが遅れ、二人ともまとめてドラム缶に押しつぶされながらトンネルから放り出され、下の池に落下した。

 うつ伏せに池に落ちたイヨ。やっと水面から持ち上げた頭をトトカリに踏みつけられ、もう一度顔が池に沈んだ。ぶはっ、と口から水を吐き出す。

「むあああっ! 生意気な小リスがぁっ!」


 クロウが始めたトトカリとの鬼ごっこ。初めは仕方なく付き合っていたイヨもすっかりムキになっている。



「若様、そちらに向かいました!」

 イヨと挟み撃ちにしようとトトカリの前に立ちはだかるクロウ。

 しかし、横から入ってきた赤毛の女に脇腹を蹴とばされ、転がってゴミ箱に打ち当たった。


「リスを捕まえるのは私だよ!」


 ヤーニンがトトカリを捕らえようと飛びかかる。トトカリは真後ろに飛び退き、またしてもイヨの顔を踏みつけて回転木馬の屋根の上へ。

「若様、大丈夫ですか?!」

 走り寄るイヨに「大丈夫だからリスを!」と言って起き上がるクロウ。イヨはすぐにトトカリを追いかけた。


 トトカリはゴーカートの広場を駆け抜け、ジェットコースターに向かっている。

 ヤーニンは遊園地の施設を通り抜けながら、スプリンクラーや水道の蛇口やホースを破壊し、遊園地を水浸しにした。それに伴い、避難指示のアナウンスが誤作動で娯楽施設区に鳴り響く。


 ヤーニンは水浸しの床をレイピアの冷気で凍らせながら、アーマーブーツでスケートのように滑っていき、あっという間にトトカリに追いついた。

 後ろからトトカリをつかもうとしたものの、ジャンプしたトトカリを捕らえられず、ヤーニンはジェットコースターの柱に打ち当たった。

「いったた……もおっ!」


 すぐにジェットコースターのコースに登っていくヤーニン。トトカリはすでにジェットコースターの頂上で、止まっているコースターの最後尾に立っていた。トトカリがトン、と跳ねると、コースターの車両が落下し始めた。

「うわあっ!」

 慌ててジャンプするヤーニン。コースターはヤーニンの下をくぐり抜け、反対側の山の頂上へと登って行った。トトカリはコースターから隣の建物に飛び移る。


 イヨは直接その建物に向かっていた。

 ヤーニンは建物の少し手前にある、振り子のように大きく振れる海賊船に飛び乗ると、建物の方に振れるタイミングでジャンプ。


「うぐえっ!」

 建物を登るイヨの背中を踏みつけ、追い越して登っていくヤーニン。イヨも負けじとスルスル登っていく。


 トトカリは荷物を持ち上げるためのクレーンのフックに座るとブランコのように揺らして、建物を登るヤーニンに体当たり。建物から引き剥がした。ヤーニンは床まで落下。

 イヨはそれを「ふふん」と笑いながらさらに登っていく。しかし、ヤーニンは建物のすぐ隣にあるタワーに目をつけ、タワーと建物の壁を交互に蹴りながら登り、すぐにイヨを追い越した。


「すごい身軽さだなあ、あの人……イヨと互角に渡り合うなんて」

 クロウは追わずに、建物の下で感心していた。




 マナは走る限界に達し、ゼエゼエと苦しそうに息をしながら歩いていた。

「マナ、無理しなくていいぞ。トトカリは遊んでるだけなんだ。満足したら自分からこっちに来るかもしれない」

「はあ、はあ、そっか。でも、はあ、それ、はあ、早く言ってよ……」

「悪い。オイラも気付くの遅かった。……続々と追いついてきたぞ」

 マナが振り返ると、ヒビカとザハが走ってきた。


「マナ、大丈夫か? トトカリはどこだ」

 マナは息を切らせながらタワーを指さした。中腹を越えるあたりにトトカリがいる。ヒビカは「遠いな」と一言。ザハは「おお!」と感嘆の声。

「素晴らしいな。いかにリスとは言え、モルタルや金属の壁をああも軽々と」

「ザハさん、はあ、パンクは、はあ、どこに?」


「ああ。途中でシンシアと鉢合わせしてね。ちょうどバンク君も来たから、パンク君とバンク君で相手をしてもらっている」




「へへッ。お前、シャラク傭兵団のシンシア何とかだな?」

 パンクとバンクは観覧車の前でシンシアと対峙していた。

「僕とパンクで、お前を捕らえてやる!」


「新しい護衛? 悪いけど、相手をする気はないから」

「反撃しねぇってことか? そいつぁ願ってもねえこった!!」


 パンクは腕につけた砲型アーマーを持ち上げた。アーマーはパンクとバンクの上空に火を噴く。

「バンク、やれぇっ!」

 バンクも腕につけたアーマーを持ち上げる。風が吹き出し、火を回転させ、真っ白に輝く高熱の火の玉を作り出した。

「くらえっ!」

 バンクが腕を振り下ろすと、ヨーヨーのように火の玉が回転しながら落下し、床を跳ねてシンシアの方へ飛んできた。


 シンシアは背後の観覧車のゴンドラに飛び乗り、次のゴンドラ、さらに次のゴンドラへ。どんどん登っていく。

「くそっ! ヨーヨーで追えよバンク!」

「ダメだよ! 観覧車壊したら賠償金が……」

「はァ?! こんな時にチマチマした心配してんじゃねぇ!」

「ダメだって! ひょっとしたらまだ人が乗ってるかもしれないのに!」



 遊園地にズシン! と大きな音が響いた。みな、驚いて音の方を見る。そこにいたのは


「護衛共々、皆殺しにしてやる!」

 ダウトルートで見たよりさらに巨大な漆黒ウサギを引き連れたメイだった。顔に隈取を施し、鬼のような形相をしている。メイは漆黒の首元から遊園地を見渡し、すぐにマナを見つけた。

「そこにいたかあっ!!」


 漆黒が飛び上がり、マナの目前へと向かってくる。その前にヒビカが立ちはだかった。

 しかし、漆黒はヒビカの前でクロウに殴り倒された。起き上がる漆黒をパンクとバンクの火の玉ヨーヨーがえぐるように叩く。だが、えぐれた漆黒の左腕と肩は、真っ黒な煙を吹き出し、すぐに元通りになった。


「ハァ?! 何だコイツ!」

「元通りになった?!」


「何だ貴様らぁ! 邪魔するなあっ!」

 漆黒の一蹴りで吹き飛ばされるパンクとバンク。次の瞬間漆黒の足を、ようやく追いついたタブカの剣が切り裂いた。


「マナさん、遅れてすいません。援軍を連れてきましたよ!」

 タブカの後ろから、直径一メートル半ほどのボールのような何かが三つ転がってくる。漆黒の周りに広がり、手足を伸ばしてロボットに変形すると、漆黒に銃弾を浴びせかけた。



 シンシアは観覧車のゴンドラからタワーに飛び移った。足を何度も滑らせながら必死に登っていく。ヤーニンが上から叫んだ。

「シンシア大丈夫だよ、私に任せて!」


 遅れていたイヨが下からシンシアの足を引っ張って引きずり下ろし、シンシアはそのまま一気に床まで滑り落ちてしまった。



「うりゃああああ!」

 ヤーニンが雄叫びを上げながら猛スピードで登っていく。頂上まで登り切って逃げ場を失ったトトカリが、また頭から消えようとしたところで、ついにヤーニンがトトカリの尻尾をつかんだ。



 その時、ガシャーン! と大きな衝撃音があたりいっぱいに響いた。続けてギギギギ、と金属が擦れるような音と、車両全体の揺れ。

「マナ、あれ見ろ!」

 コッパが指差す方をマナは見上げた。車両の天井がゆっくり開いていく。風が吹き荒れる中、車両真上の空に現れたのは、縦長の巨大な飛行機。マナにもコーラドで見覚えがある。


「飛行戦艦、デメバード?!」


 全員が唖然とする中、デメバードはタワーの頂上にいるヤーニンに向けて、空気を裂くような鋭い音を立てて、機関銃を放った。



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