第37話 連合国陸軍元帥
マナ達が入った第一両目。ここは丸ごと陸軍基地になっている。
基地内にある医療施設でタブカの足の手当てをしている間、マナ達は同じ建物にある部屋で待機していた。
「軍医によると、傷口が膿んでいたそうじゃないか。カンザ、君は一体何をしていたんだい」
カンザを責めるザハ。しかしカンザの方は今までと同じく、全く悪びれない。
「俺は医者ではあるけど、薬も道具も持ってないんだ。知識だけあってもどうしようもねえだろ」
「君が一言でも『膿んでいる』とか『気を付けて清潔に』とか言ったかい? ほったらかしだったじゃないか。せめて、定期的に様子を診てやるとか」
「そんなことしたって、『なるほど膿んでるな、我慢しろ』で終わりさ」
「やぶ医者なのか君は!」
「どうなのかねえ」
ザハはかなり頭に来ているようだが、カンザの方は一向に相手にしようとしない上に、特に何か罪悪感があるようにも見えない。
マナはあまりカンザを責めても仕方ないと思っていたものの、ザハの意見を否定することもできず、二人の間でただ戸惑っていた。
扉が開き、若い兵士が入ってきた。
「マナさん。陸軍元帥閣下がお待ちです。こちらにお越しください」
「ん?」とヒビカ。
「ジェミル陸軍元帥閣下がか? マナを呼ぶ理由は何だ」
海軍とはいえ階級は大将であるヒビカにジロリと睨まれ、兵士は困ったように言った。
「そ、それは、後々元帥閣下に直接お尋ねください。とにかくマナさん……」
「私も一緒に行こう」そう言ってヒビカがマナより前に出る。
「い、いや、元帥閣下はマナさんだけと……」
「お叱りは私が直接元帥閣下から受ける」
ヒビカはそのまま兵士とマナの間に入り込み、透明になっているコッパと四人で階段を登り、大きな扉の部屋に向かった。
「お連れ致しました」
兵士の言葉のすぐ後に、部屋の中から「入れ」と太い声。
兵士が扉を開くと、部屋の奥にある机の前に、眼鏡をかけた大柄な男が立っていた。初老で、白髪もかなりある。
マナが部屋に入ろうとすると、先にヒビカがマナをグイッと押しのけるように前に出て、敬礼をした。
「海第七軍大将、ヒビカ・メニスフィトです」
「……会うのは、君の大将就任以来だな」
ジェミル陸軍元帥はヒビカを見ても顔色一つ変えず、敬礼も返さなかった。すぐにマナに顔を向ける。
ジェミル元帥の目はゆったりと優しさをたたえていた。だがどことなく、押し付けがましさも感じられる。
「君がマナさんですね?」
「はい。……私に何か御用ですか?」
「盗賊のせいでかなり危険な目に遭ったと聞いています。タブカ大尉が力不足で申し訳ない」
「い、いえ……」
紳士……と、恐らく多くの人が言うだろう。ジェミル元帥のピシッとした綺麗な軍服、銀縁のオシャレな眼鏡、整った髭に太く低い声、そして優しげな顔立ちは、まさに紳士と言うにふさわしい。
だがマナには、どうもその奥に何かが隠されているように思えてならなかった。それが何かいい物か、悪い物なのかは全く分からないが、何となく本人が意識的に隠しているような気がする。
「君の安全を確保するには、賊を捕らえることが一番です。タブカ大尉から連絡を受けましたが、賊は君の……」
- - - どコだあああ! ら、らラ、ランぷはぁ!
「ランプを狙っているらしいですね」
マナの耳元で「気を付けろ」とコッパがささやく。
「私に預けてくれれば、賊の注意はこちらに引きつく。我々は賊を捕らえられ、君は安全に旅を続けられる。それが一番だと思いませんか?」
ジェミルがマナの前までゆっくり歩いてきた。
「あ、あの、私の旅は、ランプがないと」
「それなら、賊が捕まるまでは旅を中断するといい。滞在費は陸軍で負担しますよ。もちろん、あなただけでなくご友人方も」
「そ、それは……」
「ランプは我々に預けたまえ」
「でも、これは」
「預けなさい」
ジェミルの手がマナの肩に触れた。
「閣下!」
ヒビカが鋭い声を出した。
「ランプはあくまでマナの私財です。平時においては軍人による私財の徴収はできません」
ジェミルは笑い出した。
「『徴収』とは大げさだな。預けたらどうかと提案しただけだ。無理やり取り上げるつもりはない」
「それは失礼。預け『なさい』とおっしゃったので、早とちりしました。マナには断る権利があるのですね」
「もちろん。だが、現実を考えたまえ。狙われているランプを持って旅を続けるのは危険だろう?」
「ですから、護衛として、タブカ大尉と私が遣わされたのです」
「だが、タブカは君がいなければ殺されるところだったのだろう?」
「不足とおっしゃるなら人員を増やしましょう。陸軍で都合がつかなければ、私の権限で海軍兵をつける事もできます」
「マナさんがそれで安心するかね?」
「それは、私には分かりません」
ヒビカはマナの方を向いた。同時にジェミルもこちらを向く。
二人とも、自分の導きたい返答があるのだ。
「安心……は、できません」
ジェミルがうなずいた。
「だろうね」
「でも、ランプは預けません」
ジェミルもヒビカも「ん?」と小さくこぼした。
「盗賊を捕らえたいなら、勝手に私を餌にでもおとりにでもしてください。私は、ランプを持って、旅を続けます」
コッパが「よく言ったな」とささやく。
「閣下」
ヒビカの声で、ジェミルの視線がやっとマナから逸れた。
「これで、はっきりしました。他にご用件は?」
「……いや」
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