第27話 別れ
汽笛を鳴らして出港する、オッカから陸へのフェリー。その船室で、マナとコッパ、リズが話をしていた。
「リズ、パンサーが直せるんだね。私も嬉しいよ」
「オイラも」
「ああ。ありがとうね」
「コーラドに行くの?」
「いや、ファルココに行く。直すにはあそこが一番都合がいいからね。パンサーを運送する手配もできてる」
「そっか」
「……マナ、そのランプって、一体何? どうしてあんなにしつこく狙われるんだよ」
マナは口を閉じて視線を下げた。コッパは黙ってマナを見ている。
「言えないか。でも、とにかく大事な物なんだね。旅をしてる理由も、自分の興味関心だけが理由じゃないんだろ?」
こくりとうなずくマナ。そんなマナの肩にリズが手を置く。
「ヒビカさんは最高に頼りになる。あたしなんかよりずっとね。タブカも……あたしの心配し過ぎだった。あの二人がいれば、安全だよ」
「でも、寂しくなるなあ」
コッパがスルスルとリズの肩に登った。
「ジョウもリズもいいやつだし、お前らとの旅はメッチャ楽しかったのに」
「パンサーが直ったら、また戻ってくるよ。それまでの、一時的な別れだ。もっとあんたたちの力になれるようになるからね」
マナは首を横に振った。
「リズは今のままでも、とっても頼りになるよ。もちろんジョウ君もね。だから、パンサーが直ったら、すぐ戻ってきて。ジョウ君と一緒に」
「……分かった。ジョウにも伝えておくよ」
*
船上での一晩が明け、リズとジョウはマナ達と別れて二人で車に乗り、ファルココへと砂漠の道を走っていた。
「なあリズ、ちょっと聞いてくれないか?」
冷たくあしらわれる心配をしながらも、ジョウは運転中のリズに声をかけた。
「何?」
「俺、『飛行機を作る』っていう自分の夢を叶えたくて、マナさんと旅してたんだ」
「ああ。知ってるよ」
「お前に色々教えてもらって、正直言うと、ここから先はもう旅をしなくても飛行機は作れると思う」
「あたしもそう思うよ」
「でも……何かすっきりしないんだよな」
「そうか。すっきりしないか」
「俺、マナさん大好きなんだよ。あ、恋愛的な意味じゃなくて」
「分かるよ。あたしもだ」
「でもマナさん。俺達に、大事な何かを隠してるよな? ひょっとしてリズは知ってるのか?」
「いや。ランプの事も、旅の理由も、教えてもらえなかった」
「やっぱりか。俺、引っかかるんだ。マナさん、裏ではすごく苦しい思いをしながら旅してるんじゃないかって」
「……そうかもしれないね」
「助けてあげたくないか?」
「ああ。あたしも助けてあげたいよ」
「パンサーが直ったら、リズはまたマナさんのところに行くんだろ? 俺、アーマーいじるくらいしか能がないガキだけど、一緒に連れて行ってくれないか?」
リズがどう答えるか不安だった。自分と違って、リズは大人だ。「やめておけ」などともし言われたら、くじけてしまうかもしれない。
「それくらいしか能がない、ってのは、あたしも同じだよ」
「え?」
「自分であれがしたい、これがしたいって思っても、飛行機の操縦以外、大したことはできない」
「お前は、乗り物の操縦は何でもできるじゃんか」
「飛行機以外は、誰でも覚えりゃできるレベルだ。それを言うならあんただって、自分で作ったこの車でちゃんとマナを連れて行ってたじゃないか」
「そうだけどさ……それくらいしか」
「もちろん、あたしも気持ちは分かるよ。同じだ」
「……俺達、マナさんの足手まといにならないかな」
「ならないよう、頑張ろう」
「もし足手まといになっても、マナさん一緒に旅させてくれるかな」
「あの子なら、受け入れてくれるだろ。だからできるところまで頑張ろう。あたしとあんたと、一緒にね」
「マナさん、次はどこに行くって言ってた?」
「『大迷宮寺院ダウトルート』だよ」
「知らないな」
「数百年前に作られた、巨大な宗教寺院だ。もう廃墟で、迷宮になってるけどね。そこに怪我を何でも直せる大ガマガエルがいるらしいよ」
「マナさんがそこに着くまでに、パンサー直せるかな」
「無理だろうね。ダウトルートは、ここからそう遠くないから」
「……ファルココでマナさんの無事を祈るしかないのか」
リズがスピードを上げたため、ジョウは緩んでいたシートベルトをキツく締め直した。できるだけ早くマナのもとに戻りたい。それはリズも同じなのだ。
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