第21話 遊郭




 貸し潜水艦を探すマナとヒビカ。だが、人間が五人乗れて深海まで行けるもの、という条件をつけるとなかなか見つからず、こちらも苦戦していた。


「うちは深海に行けるヤツは持ってないね」


「五人は多い! 深海行くなら二人が普通だし、三人が限度だよ」


「軍隊ならまだしも、民間で五人乗りは……」


 どの店の店員もそんな感じの中、ある店でこんなことを言われた。


「店では扱ってないけど、持ってる奴なら知ってるよ。この住所に行って頼んでごらん」


 渡されたメモを見ながらマナ達は歩き回っていた。

「ここがココモ六番地だから……」

 壁にある住所表示を見ながら、少しずつ近付いていく。

「なあマナ、なんとなくちょっと怪しくないか? オイラやめといた方がいいと思うぞ」

 マナの耳元で、透明になっているコッパがささやく。


「でも、どのお店の人も無理って言ってたでしょ? コーラドでリズに会った時だって、初めは不安だったけど、結局頼りになったし」

「そうだけどさ……もし襲われたりしたら」

「今はヒビカさんがいるから、そこは心配ないんじゃない?」


 マナはぴたっと立ち止まった。壁に書かれている住所がおかしい。

「イズマ十九? あれ、なんでこんなところに来ちゃったの……」

 あたりをくるりと見渡すと、この辺りは清潔感のある爽やかな雰囲気の白い家が並んでいた。ただ、人は少ない。


「おいテメーら。俺んとこに何の用だ」


 金髪にピアスだらけの耳と鼻。どう見てもチンピラの若い男が、がんを飛ばしてきた。マナはたじろぎながらも、努めて明るく答える。

「ごめんなさい。道を間違えたみたいなの。もう行くね」

 マナがそう言うと男は無言で近寄ってきた。マナは恐ろしくなり、取りあえず方向転換して、歩き出す。


「待て」


 今度は建物から何人もチンピラのような男が出てきて、目の前に立ちはだかった。後ろの金髪と挟み撃ちにされてしまう。金髪はマナではなく、ヒビカを指さした。


「テメエ、海軍のヤツだろ。女が何しに来た?」

 ヒビカは鼻でフンとため息をつき、金髪に言った。

「ここらの妙に綺麗な建物。どうやらここは違法遊郭のようだな。お前、その若さでこの辺りの元締めか何かか?」

 ギクッとしたマナ。とんでもないところに来てしまった。


「『どうやら』? そうか。普段オッカで勤務してるヤツじゃねーんだな?」

 男は今までと打って変わり、へらへら笑いだした。

「テメエ、マントを見る限り、大佐か准将あたりの、階級の高い軍人だろ? ここをオッカの海軍支部にチクッても無駄だぜ」

「なぜだ?」

「ここは軍人もご用達だからさ。本部からも客が来る。馴染み客には大将だっているんだぜ? 俺にたてつくと、あんたの首も飛ぶだろうな」

 ヒビカは腰の剣を抜き、金髪に向けた。

「飛ばないな。私も大将だ」

 男たちの顔色が一気に変わった。


「女のくせに大将だと? なるほど、元帥か誰かに体を売ったんだろ。ひょっとしてここに転職しに来たのか? 歓迎するぜ」

 金髪がそう言ってせせら笑った瞬間


 グバン! と空気が破裂するような音。ヒビカの剣から出た衝撃波で金髪の男が五メートル近く吹き飛ばされた。


「ラバロさん!」

 男たちが慌てて駆け寄る。ラバロは彼らの手を振り払って起き上がると、ポケットから銃を取り出した。

「テメエ、ここで殺してやる!」


「ラバロさん、流石にやばいって。相手は海軍将校だぜ?」

「黙ってろ!」

 手下を殴り飛ばしたラバロが銃を構えようとする前に、ヒビカが二発目の衝撃波。ラバロがまたしても吹き飛び、ヒビカは追撃をかけようとそれを追う。


「ぶっ殺す!」と怒鳴ったラバロの銃を剣で撃ち落とし、ラバロを抑え込むと、ヒビカは倒れたラバロに上からさらに衝撃波を放った。全く容赦ない。


 ラバロの苦しそうな呻き声が聞こえる中、ヒビカはマナのところまで戻ってきた。

「住所を見せなさい。私が連れていく」




                *




「ねえお姉ちゃん、オッカに入らないの?」

「ああ。街中でやりあったら、騒ぎが大きくなりすぎるからね。あそこには海軍支部もあるし」

 水平線に見えるオッカ。ここからなら向こうに発見されることはまずない。シャラク傭兵団の三人は、フェリーでの襲撃が失敗してから、ここでずっとオッカを見張っていた。


「じゃあどうするの?」

「あいつらは潜水艦で海底の霊獣に会いに行くつもりなんだよ。だから、海でやる。護衛は陸軍のヤツだから、海でならあたしら三人で倒せるでしょ?」

「ジャオから借りたこのボートで、あいつらを襲うって事?」


 ヤーニンをシンシアがたしなめる。

「依頼主を呼び捨てにしないの」


「ま、細かいやり方は臨機応変にね。このボートの高精度望遠鏡なら、ここからでもオッカから潜水艦が出るのを監視できる。しばらくはここで貼り付くよ」

 ジョイスはそう言い、自分が覗いていた望遠鏡をシンシアに手渡し、ごろりと寝転がった。



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