第17話 新たな同行者
近付いてくる。マナは確信していた。こいつらの狙いはランプだ。マナはランプを砂にうずめるように押し込んだが、すぐに黒髪の女が手を引っかけた。
「よこしな。そうすれば殺しまではしないからさ」
「だめ!」
「よこしなって! ぶっ殺されたいの?!」
「だめ!!」
マナと女の間に虹色が渦巻き、コッパが大きく膨らんで女を押しつぶした。
「な、何だ?! このっ……邪魔だよ!!」
女が拳を振ると「ドン」と大きな音が響き、コッパはしぼみながら空へ吹き飛んだ。
「コッパ!」
マナが泣き叫ぶと同時に、女の手が再びランプにかかる。
「だめ! やめてお願い!!」
突然、大きな機関車の汽笛のようなけたたましい音が鳴り響いた。そして次の瞬間、マナの目の前にゴウッと風が吹き、「ぐえっ」という女の声。
気付くと、女がいなくなっていた。視界の右端で、ボン! と砂煙が起こる。
「お姉ちゃん!」
リズを抑え込んでいた赤毛の女が慌てて砂煙の方に走る。
ジョウを抑えている金髪の女は、大きな銃を両手で構え、マナの後ろに向けて撃った。銃声の直後、ギィン! という鋭い音が鳴り響く。
マナが振り返ると、ペッドゥロが目を覚まし、立ち上がっていた。角を振って、あの黒髪の女を吹き飛ばしたのだ。
金髪の女が銃を乱射するが、ペッドゥロの宝石の鎧が銃弾を全てはじき返している。
ペッドゥロは再び、汽笛のようなけたたましい鳴き声を上げ、頭を素早く振って、金髪の女を空へ打ち上げた。
「こんのヤロォ!」
黒髪の女が高く飛び上がり、アーマーを取り付けた左手でペッドゥロを殴った。ガキィン、と金属質の大きな音が響くが、ペッドゥロはやはり全く動じずに、角の一振りでまたしても女を吹き飛ばした。
朝日を受けて七色に輝くペッドゥロの鎧。殴られても銃弾を受けても、傷一つついていない。
「ジョイス、ヤーニン!」
金髪の女が残りの二人を呼ぶ声。マナも彼女の指さす方を見た。地平線のあたりに大きな砂埃が見える。
「あっ!」と赤毛の女。
「お姉ちゃァーん、軍隊来たァ!」
「うるっさい、分かってる! 逃げるよ!」
黒髪がそう言ってボートに走ると、赤毛の女も後に続き、金髪がハンドルを握って猛スピードで逃げて行った。
*
『危ない目に合わせてすまない。私もマナ達の旅の安全と幸せを願っているよ。またここに来ることがあったら、是非合いに来てくれ』
ペッドゥロはそう言い、陸軍の砂上巡洋艦がつく前に、今日の寝床に向かい、去って行った。マナのランプには、新しく
連合国陸軍第四十七支部、アルラディーン基地。マナ達は砂上巡洋艦に乗せられ、ここに連れてこられていた。
「ご無事で何よりです」「まずはけがの手当てを」それっぽい言葉を並べてはいるが、これは拘束に近い。
マナの前に三枚の写真が置かれた。
「この女どもに間違いありませんか?」
髭を生やした陸軍大佐に詰め寄られるように言われ、マナは写真を手に取って確認した。
一枚目の女は短い黒髪にブルーの瞳。名前の欄には「ジョイス・テン」と書かれている。
二枚目の女は長い金髪にブラウンの瞳。名前は「シンシア・ツーアール」
三枚目の女は縮れた濃い赤毛にバンダナをつけ、グレーの瞳。名前は「ヤーニン・ヴィス」
「はい。この人達、誰なんですか?」
髭の大佐は「ふん」と鼻を鳴らし、腕を組んだ。
「盗賊ですよ。本人達は『シャラク傭兵団』とか名乗ってますけどね。狙われる心当たりは?」
またしても詰め寄るように迫ってくる。この部屋にいるのは目の前の髭の大佐と、後ろの扉脇の屈強な二等兵だけだ。リズとジョウとは離されてしまった。
「……分かりません。さっぱり」
「本当に?」
「あ、あの、私は……」
「あなたに手を出す時何か言ってませんでしたか?」
「いえ、私は何も」
「本当に?! 無言だったわけではないでしょう?!」
「い、いや……」
バタン! と扉が開き、リズがジョウを連れて入ってきた。
「マナ、ここにいつまでもいたって仕方ない。警察に行くよ」
ほっとしながら立ち上がるマナ。だが髭の大佐も「待った待った」と立ち上がる。
「まだ取り調べの途中だ」
「取り調べって何だよ? あたし達は別に何も悪いことはしてないだろ」
とリス。大佐を軽く睨んでいる。
「捜査に協力しないおつもりかな?」
「警察の捜査になら協力するよ。これから被害届も出しに行く。普通の犯罪捜査は陸軍の仕事じゃないだろ。何の権利であたし達を不当に拘束するんだ?」
「不当に拘束などしていない」
「じゃあ行っていいだろ」
リズがマナの手を取って引くと、髭の大佐も「待ちなさい!」と反対の手を引く。だが、すぐに離して咳払いをした。
「君たちの道中が不安なんですよ。うちから一人、護衛を付けましょう」
髭の大佐が「おい」と扉の向こうに声を上げた。
入ってきたのは、国立博物館で出会った、大柄な若い兵士だった。ぺこりとお辞儀をして名乗る。
「タブカ・シア大尉です。これから皆さんの旅のお供をさせて頂きます」
タブカは二メートル近くある長身で、体格もがっしりしている。サッパリした髪型に、くっきりした目鼻立ちで、表情もにこやかだ。
「あたし達に護衛なんて要らないよ」
大佐は自分の髭を撫でつけながら「しかしねえ」とリズに言った。
「君たちを襲ったあいつらは、博物館で軍事機密のファイルに不正アクセスした疑いもある。我々としても、ほったらかしにはできないんでね」
「あたし達を餌にでもするつもりか?」
「ははは」と笑う大佐。
「まさか。万が一、皆さんの元にまた現れた時に、我々がすぐ駆けつけられた方がいいだろう? 相手は武装した盗賊だ。警察では少々心許ない」
「要らないって言ってるだろ」
リズがそう言ってまたマナの手を引っ張ると、大佐は「ダメだ!」と大きな声を出した。
「軍事機密を盗んだ賊を捕らえるのは、我々の仕事だ。協力して頂きます」
「……護衛だとか何とか言って、結局それが目的じゃないか」
そう言ってリズは大佐を、続けてタブカを睨み付けた。大佐の方は動じないが、タブカは少々戸惑っているようでマントの首元をいじっている。
「タブカ大尉は君たちの邪魔をすることはない。同行させなさい」
どうやら、断る事は出来なさそうだ。
*
「どうも、大佐が失礼しました」
宿へ歩く途中、タブカがそう謝った。
「大佐は任務の事になると熱くなるものですから」
マナが「いえ……」と恐る恐る言うと、タブカは申し訳なさそうに続けた。
「マナさんには、随分怖い思いをさせてしまったようですね。申し訳ない。私に遠慮は無用です。敬語もいりません。空気だと思っていただいて結構です」
「フン、空気ねえ。たかが三人の盗賊捕まえるために、一般人に軍人を同行させるなんて。その三人の女は一体何者なんだよ」
リズがそう言うと、タブカは「さあ」と頭をかきながら返した。
「私は知りません。ただ皆さんに同行するようにと。大佐の命令に従って、任務を遂行するのみです」
マナは宿につくと、荷物をまとめた。すぐ出発できるように準備をし、手元に地図を広げる。
サルベージタワー オッカ。リズとはそこで別れることになる。今回の事を思い返すと、この先の旅は不安でいっぱいだ。だが、こんなところで旅を終わらせるわけにはいかない。
何としても、あの人との約束を果たさなければ。
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