第5話 旅立ち




「マナ、オイラ腹減ったよ。リンゴ食いたい」

「もうちょっと我慢して。十一時発の汽車に乗るから、お昼は汽車の中だよ」

「汽車の中ァ? リンゴ売ってんのか?」

 売ってないだろうなと思いながら「売ってるんじゃない?」と適当に答えるマナ。今は地図を読みながら歩くので手一杯だ。


「えーっと、工房『マイレール』を背中に交差点……あっ、違う! 反対だった!」

 マナは慌ててUターンして走り出した。道を間違えたまま、かなり歩いてしまった。大急ぎで駅に向かわないと汽車に間に合わない。


 ガラガラと大きく揺れる荷物の上から、コッパはマナの背中に飛び移った。

「時間ヤバイのか? いっそのこと諦めてリンゴ……」

「ダメだってば!」




 マナが息を切らせて駅に到着すると同時に、大きな汽笛が鳴り響いた。マナの「待ったー!」という叫びも虚しく汽車は走り出し、二人を置いて行ってしまった。


「あぁーあ」

 ただ背中につかまっているだけのコッパがへらへら笑いながらそう言う。

「行っちまった。マナ、リンゴ買ってくれ」


 マナは返事の代わりにぜえぜえ息をしながら、駅の入口へと戻り、正面の広場につながる大きな階段にすとん、と座り込んだ。


「なあマナ、あの汽車もアーマーなんだよな」

「そうだね」

 まだ息が苦しい。返事も一言で済ませる。

「水を循環させればそれでいい永久機関のはずなのに、何で汽笛がついてるんだ?」


「アーマーは『準』永久機関。循環と言っても、水はアーマーの燃料だ。中で液体から気体になったり個体になったりする。理論上は全ての水が変化するけど、現実には極少量ずつロスすんだよ」


 声の方向にコッパが「ん?」と顔を向け、マナも顔を上げた。


「それに加えて、そもそもアーマーを動かし始める時には余分な水が必要。駆動が軌道に乗ったら、その際に使った水は気体の状態で排出しないといけない」


 階段を登ってマナたちの前に現れたのは、ジョウだった。階段の下には、あのスクラップみたいな車もある。

「ロスする水を補うためにはその際排出する水を一定の速度で……ここから先は超専門的な話だな。ほらコッパ、リンゴやるよ」

 投げられたリンゴをコッパが受け取った。そしてお礼も言わずにシャクリと一口。


 マナは息を切らせながらも、ジョウに笑顔を向けた。


 あどけなさの残る彼はまだ十五歳。昨日、霊獣ジャゴの背中に一緒に乗った時にはキラキラと目を輝かせていた。人懐っこさを感じさせつつも、力強いエネルギーを感じさせる少年だ。


「工房を出ることにしたんだ。汽車に乗り遅れたんだろ? 俺も仲間に入れてくれよ。俺の車で、自由にどこでも行けるぞ」

 マナは「うん」とうなずき、笑顔でジョウの手を取り握手をする。


「これからどこに向かうんだ? 次の霊獣に会うんだろ?」


 深呼吸して息を落ち着かせ、マナは一枚の写真を取り出し、ジョウに見せた。写っているのは、地平に並ぶ何隻もの古代の超巨大空母だ。



「航空母艦都市コーラド。その近くに、稲妻をまとって天空をかける鷹がいるの。一緒に会いに行こう!」



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