光魔法の勇者召喚 ~オレは照明係じゃねぇ!~

内藤ゲオルグ

第1話

 勇者として召喚されてから約一年。

 魔物や魔獣を倒すこともなく、未踏領域を探索することもなく。


 オレはニートになっていた。



 自室のベッドで寝転びながら読書に耽っていると、控えめにドアを叩く音と共に声がかかる。

「勇者様、お食事の時間です」

 ニートと言っても引きこもりではなく、普通に食堂でメシを食べるし、屋敷の中の人たちとコミュニケーションだって取る。

「今行きます」

 固まった体を伸ばしながら靴を履くと、上着を羽織って廊下に出る。

 律儀に待ってくれていたメイドさんと一緒に食堂に向かいつつ思う。

 穀潰しのオレの事を一体どう思っているんだろうか? ポーカーフェイスのメイドさんからは何も読み取れない。今さらではあるけど、肩身の狭い思いはどうしたって感じてしまう。


 毎日繰り返す自己嫌悪を努めて無視して食堂に向かう。

 大きな屋敷に食堂はいくつかあるけど、今日はその中でも一番小さな食堂に案内された。

「来たか、ライコウ殿」

 食堂に入ると同時に渋い声で話しかけられる。この屋敷の主、辺境伯だ。

「お待たせしてしまいましたか?」

「いや、気にすることはない。腹が空いただろう?」


 ここは未踏領域への最前線。

 そこを治める地方領主、辺境伯の屋敷だ。

 厳しいけど情に厚い辺境伯は、オレのような役立たずも見放すことなくずっと面倒を見てくれる。

 もちろん厳しさ故に、何もしないというのは許されない。毎日の訓練や学習は欠かさずに受けている。


 では何で"ニート"か。


 それはオレが魔物や魔獣退治に一切参加しないからだ。

 今日だってクラスの皆が遠征に行っているのに、オレだけは不参加だ。


「訓練の調子はどうかね?」

「騎士団の皆さんのお陰で、自分でも驚くほどですよ」

 様々な意味で危険に満ちたこの世界だ。世話になっている辺境伯への義理や建前だけでなく、訓練は自分のために必要な事。嫌が応にも真剣にならざるを得ない。

 幸い、勇者として召喚されたからかなのか、基礎的な身体能力は何故か飛躍的に高くなっていたし、物覚えも異常なレベルで良い。

 学習効率は以前とは比較にならない程に良くて面白いように何でも吸収できる。

「最早、我が騎士団で相手が勤まるのは団長くらいのものか」

「何もかも皆さんのお陰ですよ」

 オレは強くなった。この世界の知識だって物凄く豊富になった。

 そんなオレが何故屋敷に留まりニートをしているのか。


 もちろん理由がある。

 それはオレが"光魔法"の勇者だからだ。

 光魔法の勇者と言えば聞こえは良い。いかにも勇者らしい魔法適性じゃないか。最初にそれを知った時には興奮したもんさ。

 ところが喜びも束の間、光魔法はハズレもハズレの大ハズレ!

 一般人でも代用が利く、照明係にしかならない魔法と来たもんだ。


 この落胆が理解できるか?

「光魔法の勇者!? マジかよ、オレ、主人公みたいじゃん!?」

 あの時のオレを殴りたい。まさか照明係程度の役にしか立たないハズレ魔法を引いてはしゃいでいたとは。


 光魔法とはその名の通り、光を操る魔法だ。

「光魔法って、どんな魔法が使えるんですか!?」

 当時のオレはワクワクしながら聞いたもんだ。

「えっと、光を灯します」

「おおっ、一番オーソドックスな奴、基本中の基本ですね! それから?」

「……それだけです」

「は?」

 どれほどの間抜け面を晒していたんだろうか。

「それだけ? いやいや、まさか光を灯すだけなんてあるはずないだろ。冗談ですよね?」

「・・・・・・それだけなのです。えっと、しかしですね、勇者様であれば一般的な光魔法よりも遥かに光量があったり、持続時間が長かったり、多数を同時に使えたりと、様々に活用できるはずです! それに光魔法の魔法適正があるなんて、記録上でもとても珍しいことなのですよっ!」

「マジかよ・・・・・・」

 慌ててフォローしてくれる鑑定士のお姉さんの言葉は、まだ若いオレには何の慰めにもならず虚しいだけだった。


 召喚された勇者たちの魔法は桁違いの威力を誇った。

 岩をも溶かす業火を放ち、天まで届く竜巻を発生させ、荒野に濁流を生み出し、小山のような大地を隆起させる。

 さらには自在に落雷を発生させ、ある程度の重力までをも操作し、テレパシーのような力や念動力を操り、怪我や病気を一瞬で治してしまうなどといった、まさに規格外の魔法適性と魔力を持っていた。


 そこにオレの光魔法だ。

 確かに凄まじい光量、個数、持続時間を発揮できたものの、それだけだ。目眩ましには使えても、それは味方にも影響してしまう。練習の時、試しに光量を激しく上昇させてみたところ、苦情が相次ぎ二度と使用しないようにとまで言われる始末。

 一番求められるのは、程々の光。

 夜間でも地下でも、戦闘の邪魔をしない光だ。

 だが、その程度の魔法は誰でも使える。そう、光魔法の適性がなくたって誰でも使えてしまうんた。もちろん勇者たちにも。

 これは致命的だった。


 戦場の花形はやっぱり魔法だ。

 接近戦でチマチマ一匹ずつ魔物を倒してたらキリがない。奴らはそれほど大量にいる。

 ド派手に一撃で多くの魔物を仕留める勇者たちは、この世界の人々にとっても規格外ですぐに尊敬と憧れを集める存在となっていった。


 溢れるようにして未踏領域から押し寄せる魔物や魔獣の討伐。

 それからその原因の究明と排除を期待されて召喚されたのがオレたち勇者だ。

 だけど、そこにオレの居場所はなかった。そしてオレは自分の光魔法に対する興味を失った。



 益体もないことを思い出しながら食事を進める。

「騎士団から報告を受けているが、ライコウ殿の戦闘力は今後の伸び白も考えれば、末恐ろしいものがあるようだな」

 辺境伯は盛んに誉めてくれるが、その意図は分かりきっている。

「どうだ? 例の件、そろそろ考えてみてはくれぬか」

 実は少し前から、辺境伯の騎士団に正式に所属しないかと勧誘を受けているんだ。


 所謂攻撃魔法は大して使えないが、身体強化魔法は勇者として恥ずかしくないレベルで行使できる。

 異常な吸収力で剣術をすぐに修めたオレは、激増した身体能力とそれを飛躍的に活かす身体強化魔法でもって、未踏領域の凶悪な魔物であろうと簡単に倒す事ができる。

 自らの魔法適正を忘れるように訓練に没頭して強さを手に入れた。だけど全ては意味のないことだ。勇者たちの魔法はそれ程までに別格なんだ。

 それでも、この世界にとって見れば、オレは破格の人材と言っても良いのかもしれない。

 元の世界に帰る目処も立たず、屋敷に居残り続けるオレの事は、勇者云々を置いておいても確保できるのならば、是が非でも確保しておきたいのだろう。


 勇者としての務めを果たさないオレを責めるでもなく、訓練と知識を施してくれて、生活の面倒まで見てくれる。

 打算があったとしても、感謝してもしきれないほどの恩がある。


 そんな辺境伯の誘いをなぜ渋るのか。

 あえて言葉にするならば、それはオレが男だからだろう。


 勇者として召喚され、特別な力を授かった上に、努力してこの辺境伯領で最強とも言われる騎士団長と互角以上に闘えるようにまでなった。

 そんなオレが肩身の狭い思いをしながら生きている。

 全ては、他の勇者たちのような魔法が使えないが故に。


 悔しいんだ。

 本当はオレだってクラスの皆と一緒に未踏領域に行きたい。そこで魔物や魔獣をなぎ倒しながら、未知の領域を冒険したい。

 今のオレはきっとクラスの勇者たちの誰よりも強い。地道な戦闘訓練を受けているのがオレだけだから当たり前だ。

 そもそも他の勇者たちは魔法が強力過ぎて地道な訓練なんか必要としない。強力な結界魔法の使い手がいるから護衛だって不要だ。

 大規模魔法が乱れ飛んで敵を殲滅する中、オレだけが接近戦をするわけにはいかない。それは攻撃魔法を使う側にとって迷惑でしかない行為だ。


 それでも、いつかオレが必要とされる時が来るんじゃないか。

 割り切れない。はっきり言って未練がある。

 クラスの奴らとは気まずい関係がずっと続いている。

 唯一の役立たずであるオレを公然とバカにしてくる奴さえ何人もいる。平然とオレの事を照明係なんて呼んで来やがる。

 未練たらしい自分自身に呆れる気持ちもあるけど、人間そう簡単に割り切れるものでもないだろう。


「すみません。騎士団へのお誘いは名誉な事だと思っていますが、まだ気持ちの整理がつかないので……」

 本来なら有難いはずの申し出を、今日も玉虫色の回答でお茶を濁す。

「そうか。急かすようて済まなかったな」

 辺境伯はオレを気遣ってくれつつ、ふと何かを思い出したように話を変える。

「おお、そうであった! 明日の夜から降神祭が始まるのだが、ライコウ殿は知っておられたか?」

「降神祭? いえ、どんな催し物ですか?」

「建前は神代に降り立った神を尊ぶための祭事だが、街の皆は一晩中飲んで食べて騒ぐ、まぁ羽目を外して楽しむ日、と言ったところだな」

 飲んでか。この世界に飲酒の年齢制限は無いらしいが、一人で行って試してみるのもな。

「それだけではない。楽隊や踊り子、大道芸人に数えきれないほどの出店も現れる。騎士団や屋敷の皆も楽しみにしている地域で一番の祭りだ。ライコウ殿もせっかくだ、行ってみるといい」

 そこまで言われると興味も湧く。

「そうですね。少しだけ覗きに行ってみる事にします」

 騎士団の人とは訓練を通じて仲良くさせてもらってはいるが、一緒に遊びに行くほどの仲ではない。

 気軽にぼっちで参戦してみるか。肌に合わないようなら帰ればいいし。

 明日の夜か。少しは楽しみにしておこう。



 翌日も現実から逃避するようにして訓練と自己学習に没頭する。

 我に返ったのは例によって、扉を叩く音とメイドさんが呼びかける声によって。

「勇者様、降神祭が始まっております。よろしければご案内しましょうか?」

 有難い申し出ではあるけど、彼女も楽しみにしている祭りのはずだ。邪魔は出来ない。

 感謝しつつも丁重に断ると、一人で外出の準備を始める。準備と言っても大してやる事はない。外着に着替えて、辺境伯からもらった小遣いをポケットにしまうくらいのもの。

 簡単に身嗜みだけ整えて外に出る。


「夜に外出なんて久しぶりだな」

 辺境伯の屋敷は小高い丘の上にある。

 きちんと舗装され、魔道具の街灯に照らされた道は、夜でも快適そのもの。光魔法を使う必要なんて全くない。

 ……いかんいかん、また詰まらない事を考えてどうする。せっかくの祭りなんだ。少しは楽しまないと。


 丘の上の道から見下ろす街は魔道具の光や、祭りのために集まった人々が使う光魔法の輝きに溢れて、それだけでもう幻想的だ。

 思わず立ち止まって、優しい光に満ちた街並みにしばし見惚れる。


 こんなにもたくさんの光魔法が行使されている場面は初めて見た。

 白からオレンジの微妙な色合いの違いから、光量、光らせ方まで様々に違う。まさしく幻想的と言って良い光景だ。

 そこで、ふと違和感を覚える。なんだ?

「……ん? 光らせ方?」

 気になったのは光らせ方。

 鍛え上げた魔力感知は、魔法について些細な違いも見極める。

 眼下にある無数の光魔法は、オレの光魔法とは明らかに違う。

 今まで気にしていなかったが彼らが使う光魔法は、単純に魔力の塊を浮かべている様なものだ。それでも見た通り十分な効果があるが効率が悪すぎる。


 対してオレの光魔法は違う。

 オレは多少なりとも発光のメカニズムを知っている。

 エネルギーとして魔力を用いるのは同じだが、その過程が違う。オレの場合、電子に僅かな魔力を与える事によって発光という現象を生み出しているんだ。

 これは何を意味しているか。

「!? ヤバい。今までオレは重大な勘違いをしていたのかもしれない。こうしてる場合じゃねぇ!」

 来た道を急いで引き返す。


 屋敷に併設されている騎士団の訓練場。

 今日は皆が祭りに出かけているようだし、そもそもこんな時間に訓練場にいる奴はいない。

 たった一人で訓練場の中央に立つ。

 高鳴る胸。もしオレが考えている通りなら、今までの何もかもが覆る。


 まず初めに、大分久しぶりに光魔法で基本的な光を作る。

「輝きを灯せ! 《ライト》」

 魔法の言葉に意味はない。何なら無言でも構わない。だが、言葉にした方が魔法は使いやすいから、誰だって思いついたイメージのままを言葉にする。

 ぽぅっ、と灯る光はさっき見た光とその過程は全くの別物。煌々と訓練場を照らす光は、極々微量の魔力を放出し続けて、任意の場所に発光という現象を引き起こしている。

 魔力の塊を放り出して強引に光らせるのとは訳が違う。


 光とは何か。

 単純には目に見える明るさ。それは可視光線に分類される。この世界の人はそれしか認識していないのかもしれない。だから光を灯す、これだけに特化した魔法だと思い込んでいるのだろう。

 だが目に見える光があれば、見えない光もある。代表的なところだと、赤外線や紫外線。つまりは電磁波の一種だ。

 オレはありとあらゆる光を自由に使うことが出来るんじゃないか?

 もしもそうであるなら世界が変わる。


 オレは光魔法の勇者だ。

 出来る。出来るはずだ。出来ると思い込む。出来ないはずがない!

「やってやるさ!」

 勢い込んで、まずは灯した光を収束させる。溢れる魔力から光をどんどん生み出し、一点に収束させる。

 出来る。出来てる。問題ない。全てはオレのイメージのままに。

 加減が分からないから適当なところで収束をやめ、次に目標を探す。

「あれでいいか」

 隅に置かれた廃棄予定の大楯。鉄製だったはずだ。

 そこに向かって、収束した光に指向性を持たせて放出する。

「穿て、閃光の矢! 《アローレイ》」

 瞬間、バンッ! という大きな音が鳴ったと思ったら、大楯には穴が開いて、さらにその先の地面までを焦がしていた。

「……なんだよ、出来るじゃないか」

 もはや笑いも起こらない。今までのオレは何だったんだ。


 その後は思いつくままに、光に関わる現象を起こせるか試してみた。

 レーザー光線だけでなく、マイクロ波加熱、光の屈折による光学迷彩や蜃気楼、レーダーのように探知をすることも出来た。

 持ち前の吸収力の高さによって、早くも思い通りにいくつもの魔法が使えるようになった。

 他にもまだまだ出来ることはあるだろう。

「光魔法が光らせるだけなんて大嘘だ」

 さすがに嘘をつかれた訳ではないのだろうが、それでもこれは光魔法に対する酷い誤認だ。

 光を灯す? そんなものはただのオマケでしかない。


 どうして今まで思いつかなかった?

 どうして言われた事をそのまま鵜呑みにした?


 言い訳は色々思いつく。

 魔法なんて初めてだから。現地の人にそう言われたら。そういうもんだって思うだろう?

 現にクラスの皆は最初から指導された通りにやって何の問題もなかった。



 現実感に乏しい不思議な感覚に捕らわれながら、ふらふらと自室に向かう。

 今後の発展も考えれば、クラスの勇者たちと遜色のない魔法を使えるようになったと自負できる。鍛錬で鍛え上げた分、戦闘においてはむしろオレの方がより大きな戦果を挙げる事さえ可能だろう。

 だが今更の話と思えなくもない。どの面下げて合流出来る?

 勇者たちはもう連携や役割なんかも決まってるだろうし、そもそも戦力的に不足なんか全くない状況のはずだ。つまり新戦力なんか欲していないんだ。お呼びじゃないって事だ。


「はぁ……」

 勝手に落ち込みながら屋敷の廊下を歩いていると、慌ただしい気配を感じ取った。

 なんだ? 屋敷の中を走り回るなんて普通じゃない。

 時間的にもう祭りから帰って来ていてもおかしくないが、この状況はおかしい。辺境伯に聞きに行こう。


 辺境伯の執務室は、扉が開け放たれた状態で中が丸見えっだった。

「すみません、何かあったのですか?」

 何やら忙しそうだったけど、気になって仕方がない。ここまで来たらとんぼ返りも出来ないし、遠慮がちに声を掛ける。

「ライコウ殿か! 丁度、今呼びに行かせたところだったのだ」

「何かあったのですか?」

 何かあったんだとしても、オレを呼ぶ意味が分からない。

「魔物だ。正体不明の魔物の集団が、未踏領域を抜けてこの街に迫りつつある」

 真剣な眼差しで淡々と告げられる言葉は、重い真実としてオレに伝わった。

 でもそれはおかしい。勇者たちはどうした。そんな大規模な魔物の移動に勇者たちが気が付かない訳がない。

 そして勇者たちがいれば何の問題もないはず。

「勇者たちは?」

「落ち着いて聞いてくれ。勇者殿達は苦戦中との報告があった」

 苦戦だって? あの無敵の勇者たちが?

「特殊な外殻を持った魔物らしくてな。信じ難いことに、魔法が効かないらしい」

「魔法が効かない? そんな魔物が?」

「そうだ。報告からして間違いない。幸い物理攻撃なら対抗出来るらしいが、勇者殿たちは生憎と魔法専門だからな。今は騎士団を応援にやって何とか持ちこたえている状況だ」

 なるほど。そんな敵の存在がいるとなれば、魔法一辺倒の勇者たちでは手に負えないないかもしれないな。

 そこで剣が使える俺の出番て訳か。

「数はどのくらいですか?」

 集団って話だけど、どのくらいなのか。多すぎるならオレが行ったところで焼け石に水だ。

「それが分からんのだ。今はとにかく多い、としか言えん」

 役に立つかどうか分からないが、とにかく行ってみるしかなさそうだな。

 魔法が効かないんじゃ、せっかく新たに使えるようになった光魔法も意味はない。

「分かりました。とにかく出ます」

「頼んだぞ。武器は好きな物を持って行ってくれて構わん」


 武器は遠慮なく上物を一本借り受けた。

 車両に乗って現地まで行こうと別の騎士に言われたものの辞退する。

 オレの場合、身体強化魔法を使って走った方が遥かに速いからだ。

 最近は疎遠になっているとは言え、元はクラスメートたち。

 気に食わない奴もいるけど、見殺しになんてしたら後悔しかないだろう。とにかく今は出来るだけの事をやるのみ。



 どれ程の時速が出ているのか分からない程の超速で飛ばすと、戦いの光が遠目に見える位置にまで短時間で辿り着いた。

 視力を強化してみれば、暗がりに蠢く大量の何かが居るのは分かる。

 暗いな。光をあそこまで放って照らし出してもいいが、ここは違った方法で行こう。

「闇を見通せ! 《ナイトビジョン》」

 今のオレは暗視装置のような魔法を使うことで、暗闇でも見通す事が出来る。

 結界魔法で防衛ラインを保って、必死に応戦する勇者と騎士団。

 攻撃魔法系の勇者たちは必死に魔法を繰り出すものの、全く通用していないのはここからでも分かる。あれでは意味がない。むしろ騎士団の邪魔をしている。

 唯一効果がありそうなのは、地形を変えるほどの土魔法か。そうは言っても、多すぎる敵に全てを対処は出来ていない。

 無駄に放ち続ける魔法は、全てが広範囲に効果を及ぼすようなものばかりで、一体に集中するような魔法を使っているのは居ないように見える。

 効かない魔法を延々と使ってどうする。違う魔法を何故試さない? 使える魔法の種類が少ないのか?


 そこで疑問に思う。

 本当に全ての魔法が効かないのか?

 外殻の魔法強度越える威力があったら?

 弱点は?


 オレも一度試してみよう。

 光を収束させて放つ魔法であれば文字通り光速だ。まだ遠く離れたここからでも、大気中の減衰なんかはあっても問題なく攻撃出来る。

 まだ加減は分からないから、かなり多めに光を収束せて解き放つ。

「穿て、閃光の矢! 《アローレイ》、行けっ!」

 放った瞬間、一条の光が未知の魔物を貫いたのが分かった。


 通じる。通じたっ!

 この喜びが分かるか? オレは今、魔法を使って魔物を倒したんだ。それも勇者たちが倒せない魔物を!

 とは言え、所詮は一匹片付けただけ。まだまだ魔物は無数にいる。

「チマチマやってられるか!」

 勇者たちと同じ轍を踏むつもりはない。広範囲に及ぶ魔法は味方にも危険だし、一点集中よりも威力が下がる。

 ならば倒した実績のある同じ魔法を多数同時展開すればいい。


 ヤケクソ気味に今までやった事のない規模で、魔法を複数展開する。

 自分でも数を数えるもの馬鹿らしいほどの光の収束を無数に生み出していく。

 その全てを味方の防衛線から少し離れた位置に、光の雨を降らせるように一気に解き放つ!

「星降る光よ、全てを貫き打ち滅ぼせ! 《ミーティアレイン》」

 おびただしい量の光の雨が降り注ぐ。幻想的に見えるが、それは魔物にとっては死の雨だ。

「ははっ、こりゃあ圧巻だ」

 自分でやった事とは言え、恐ろしいほどの結果に乾いた笑いが浮かぶ。同時に無言で展開していたレーダーの魔法によって、目標はクリアになっている。ミスはない。


 未知の魔物とやらが何匹いたのかは分からない。

 だがもう決着はついたと言っていいだろう。わずかに残った魔物は騎士団で十分に対処できる。

 もうオレが現地に行く必要はない。さて、辺境伯に報告に行こうか。


 帰る道すがら、報告と言ってもどうするか思い悩む。

 あの魔法と結果は、あの場で戦っていた者たち全てが目撃している。だが、それをやったのは誰かは分からないはずだ。

 素直に全てを告げた方が良いのか、悪いのか。少し時間が欲しい。


「もう少しだけ"照明係"を続けてみるか」



 了。

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