ゲームを作る感覚で
-ion
第1話
カチカチッとマウスをクリックして、オブジェクトを選ぶ。カーソルを動かして、マップ上にオブジェクトを反映させる。
いや、違うな、コレジャナイ。
別のオブジェクトを選び、再度、マップ上へと反映させる。
よし、コレだ!
パソコン画面の覗きながら、守塚陽介は、だらしなく笑った。
友人曰く「きもい笑顔だな」と称され、若干、心に傷を負ったこともあったりするが、顔は一般的なフツメンだよねとかいう幼馴染の女子からの評価を受けて、何とか自信は保てている。
本日は、晴天なり。窓から見える空は、綺麗な青色で外出日和であるのだが、陽介は、折角の休日だというのに、だらしない笑顔を張り付けながら自室にあるPCの前で作業をしていた。
カチカチとマウスをクリックして、手を動かしては、キーボードで文字を入力する。
噴水の中央には、女神の像を置いて、その周囲には、武器防具屋、酒場兼宿屋、あとは民家なんかも用意してみる。
町の人々のセリフ、こんな時には、こんなセリフ、イベントのヒント、何でもないジョークの一つ一つ。ツボ、たる、箱。猫。犬。鳥。
折角の休日に、室内に篭ってPC画面にかじりつきながらも、その笑みは深く深い。キモイと評されるのも分からないでもなかった。
「ぐふふ、ここに条件スイッチを置いておいてー」
ぶつぶつと独り言を言いながら、陽介は手を止めずに動かし続ける。
高校生といえば思春期真っ盛りボーイである。
エロい方面でも多感な時期ではあるが、別段、自家発電に勤しんでいるわけではない。笑い方はそれっぽいものがあるが、今現在進行形で行っている事。
それは、世界を作ることだった。
そのような大仰な言い回しで、陽介は友人たちの誘いを悉く断る程度には中二病に汚染されていた。
クリエイトゲーミング。素人でもゲームが作れる簡易ツールとして、発売されて以降、大人から子供まで、玄人から素人まで、ゲームであれば、どんなジャンルのゲームでも作れるというゲーム制作ツール。
現在は、大型動画投稿サイトに、自作ゲームを実況プレイするという羞恥プレイも少なくない。アレを見て、顔を覆ったことがある人も居るだろう。主に、自身の黒歴史を顧みて。
「イベントを挿入、台詞は、ようこそ、神都オルフェナへ」
陽介は、キモイ笑顔を張り付かせながら、黒歴史を作成していく。
陽介にとっては、きっと、輝かしい歴史なのかもしれない。そうであって欲しい。
「ここで、モンスターの襲撃、で、戦闘処理と、イベントの並列処置と、終了まで………できた」
よし、と頷き、ゲームの保存する。ここまで来ると、陽介のテンションは最高潮に達すのだ。
「テストプレイ開始!」
陽介が高らかに宣言した瞬間、PC画面から、溢れんばかりの光が迸り、室内を包んだ。
「なっ何だこれ――――」
それが、地球における陽介の最後の台詞となった。
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