真夏の足
ジリジリと照りつける太陽が沈みかけた頃合を見計らい、帽子をかぶってサンダルを履いてスケッチブックと鉛筆1本を持って外に出る。
夕方でも鬱陶しいほどに体を照らす光にうんざりしながら歩く。
とくに行く宛は無い、がしかしインスピレーションを刺激してくれそうなものを求めさ迷う。
ここのところ毎日そうだった。
特に何があるわけでも無い、田舎代表のようなこの地区で無いものを求めてフラフラする事が日課になりつつある。
今日は浜にでも行ってみようか。
そう思い立ち、家から歩いて1分ほどの海水浴場へ足を向けた。
そこは思ったより平凡な海辺だった。
幼い頃から親しんだ海水浴場だからだろうか。
夕暮れの魔法かなにかで少しばかりは見栄えがしたり創作意欲がそそられるものを見れるかと思っていたが。
少しがっかりしながら散歩がてら打ち付ける波の近くを散策する。
波飛沫に濡れるのは目に見えているのでサンダルはすこし波打ち際から離れた所に置いてきた。
スケッチブックを抱えながら何かないかと周りを見渡しても大したものは見つからない。
しばらく歩いて海岸の端の方に自分が小さい頃からある流木に腰をかける。
これだけ歩いて何も描かず帰るのはなんだか癪なのでとりあえず見える景色をスケッチブックに思いつくまま描く。
しかし手が止まる。
どう頑張ってみても上手くいかない。
そもそも風景画は苦手なのだから上手くいくわけが無い。
スケッチブックからそのまま視線を落としてほんの近くの砂浜をみる。
すると、そこにいくつかの足跡があった。
同じ足跡が、何重にもなって重なっていた。
女性のものだろうか、とても華奢で、綺麗な形の足跡だ。
古い足跡もあれば、新しい足跡もある。
こんな辺鄙な海岸の端に通っているのだろうか?
会ってみたい。
会って、どんな人なのか見てみたい。
そして描きたい、きっとその人は創作意欲を刺激してくれる。
何故かそんな確信があった。
理由はない、しかし、確かに僕はそう思った。
僕はスケッチブックを捲ってペンを握り直した。
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