輝くトランプ


路地裏に控えめに輝くネオンサインに惹かれ、今日も少し変わった客がそのバーに足を踏み入れる。


モノトーンで統一されたモダンな内装と若いマスターが印象的なそのバーの名は「BAR spade」


カウンターの端で一人物憂げにジントニックに口付ける若い女性や、二人で寄り添いながら酒を酌み交わす男女。仕事帰りのスーツ姿の男性の姿や老夫婦の姿まで見える。

とても幅広い顧客を抱えるこのバーにはほかのバーとは少し違う特徴があった。



staff onlyと書かれたドアからスッと物音も立てずにベストに黒い蝶ネクタイを付けた青年が出てきた。

そして、何も断りをいれずカウンター席の端に座った女性の隣に腰掛ける。


「やぁ、お嬢さん。」


女性は少し驚いた様だったが、フッと微笑んで青年に向き合った。


「選んでくれて嬉しいわ、ミスター。」


ミスターと呼ばれた青年は微笑んで胸ポケットからハンカチを取り出し指パッチンで花の髪飾りに変えて見せた。


「今日は、君のためだけにショーをお見せしよう。」


女性の髪にそっと髪飾りを付けてやり、胸ポケットから綺麗に輝くトランプを取り出した。


ほかのバーとは少し違う、このバーの変わったところ。

それは、このバーには「ミスター」と呼ばれるマジシャンがいることだ。


ミスターは毎日気まぐれな時間に顔を出し、気まぐれに選んだ客に対してだけマジックを披露する。


女性は先程の物憂げな表情から楽しげな表情に変わっていた。

好奇心に輝いた瞳で次々と披露されるマジックに見とれていた。

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