長いねこ
例えば、目の前に小さな猫がいたとする。
そして、その猫はみるみるうちに大きく成長したとする。
すると、どうだろう。
普通の猫では無いのではないだろうか、と疑い、その猫に興味を持つ。
それか、化け猫だと恐怖を抱く。
その二択なのではないだろうか。
そして今、私はそれに酷似した状況に立ち会っている。
自分がまだ幼い頃、雨に打たれ濡れそぼった黒猫を拾った。
親に怒られてしまったが、拾ってきたものは仕方ないと飼うことを許された。
猫に名前は必要無いと父は言ったが、それだと不便なので霜月と名付けることにした。
11月に拾ったからという安直な名前ながら、黒猫は随分気に入ったようで、初めてその名をよんだ時にはこちらを振り向いて機嫌良さげに一つ鳴いた。
夜を映したようなその綺麗な黒い毛と、満月を二つはめ込んだ様な目を輝かせ、家の中を彷徨く。
母はその可愛さから、最初から霜月を溺愛していたが、最近では父も霜月を膝に乗せながらうたた寝をしている様子を見かけるので、なんだかんだ言いながら可愛がっているようだった。
上京して、出会いを求めることもままならないまま仕事に明け暮れる毎日が数年ある日、母から連絡が入った。
「父さんが…父さんが…」
仕事を早めに切り上げ病院へ急ぐ。
しかし、時すでに遅し。
息を切らして病室へたどり着いたのは父がどことも言えぬ国へ旅立った後だった。
それにつられたのか、父の葬儀を終えた後、母も急に倒れてしまった。
幸い一命は取り留めたが、しばらくの入院生活を余儀なくされた。
会社からしばらくの休暇を貰い、実家に戻って家のことや親のことを一人ですべて行う。
居間で色々な書類を整理していると、懐かしい声が一つ響いた。
座ったまま声のする方を見ると、霜月が昔と一寸も変わらぬ姿で二つの半月を輝かせて座っていた。
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