100円の恋
「100円の恋」
金で人との時間が買えるだなんてなんて虚しい世の中なんだろう。
「じゃあ、今日はありがとうございました。」
「あ…はい…ありがとうございました…」
イルミネーションが輝く広場の人混みをさけた隅で繋いでいたその手を離した。
少し離し難そうにしているそれも演技だと知っている。
「じゃあ…料金は5000円になります…。」
申し訳なさげに目を伏せるのも演技だと知っている。
「…はい、ちょうどお預かり致しますね。」
少し恥ずかしそうにはにかむのも、演技だと知っている。
「…佐藤、さん…?」
動かない僕を心配して媚びたような目でこちらを見る彼女。
イルミネーションの光を映して輝くその瞳に惹き込まれてしまいそうだった。
それさえも演技だとしても、その演技に心底惚れ込んでしまった僕は、本当に大馬鹿者だと思う。
「…ううん、なんでもないよ。」
「本当ですか?」
優しく微笑んでやれているだろうか。
彼女に心配などかけたくはない。
「うん、大丈夫。…次のデートはいつにしよっか。」
そう言うと彼女の瞳はイルミネーションでまた輝いた。
「次、いいんですか?」
「うん、次はどこに行きたい?」
光に包まれた広場に不似合いな僕は、うまく笑えているだろうか?
ポツリ、ポツリとお互い言葉を零しながら次のデートの予定を決めた。
「じゃあ、今日はありがとうね。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
傍から見たら、どんなふうに見えるだろうか。
カップル?友達?それとも…。
分からない、他人の考えてることなんて。
この目の前にいる人のことさえも分からず、自分の事さえも分からないのだから、分かるはずなんて無いのだ。
「…そうだ、写真って撮れたっけ。」
ふと思い出したフリをして、去り際に彼女の方をふり向いて言う。
「はい…利用規約に則って使用用途はかなり制限がかけられますが…。」
彼女はすこし驚いたのか、大きな瞳をさらに大きくさせている。
「じゃあ、1枚撮らせて。」
僕は彼女に100円玉を手渡した。
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