古い石


「これはね、私のお爺さんのお爺さんのそのまたお爺さんの時代からある、とっても古い石なんだよ。」


おじいちゃんは昔、幼い私にそう言い聞かせてくれた。

まだ幼かった私は何も考えずに、ただ古い石なんだ、とおじいちゃんの家の庭にある大きな石をただ見つめていた覚えがある。


今でもその石がいつからあるのか、どうしてこんな所にあるのか、どうして撤去されないのか、なんにも分からないけれど、ただとても古い石である事を認識している。





あれから幾つもの春が過ぎたある日、一人で暮らしていたおじいちゃんが亡くなった。


青春のど真ん中を行く不安定な時期にふと自覚した、人が亡くなった後の故人の周りの動きを見ているとどうしても渦巻いてしまうドロドロとした感情。


これを誰にも悟られないように、隅で悲しそうな顔をして、時が過ぎるのを待つ。



【なんて退屈なんだろう、人なんて…。】



きっとこの感情が誰かに知れれば、私は情のない、残酷な、罰当たりな人だと思われてしまう。


退屈を嫌うくせして、誰かに嫌われたりするのは嫌なのだから、自分も大概退屈な人間だ。



数ヶ月後、誰も暮らさなくなったおじいちゃんの家が壊されることになった。


その時、退屈は壊れた。



「…石…?」


仕事の帰りに母から聞いた、その話。


「そうなのよ…更地にするためにどうしてもまず撤去しなきゃいけないんだけど……」


母の様子がどこかおかしい。

まるで、その先を言いたくないかの様に見えた。


「だけど、どうしたの?」


母は声を抑えて、顔を少し近づけた。

その表情は、とても気味悪いものを触れる時の表情で、私は少し身構えた。


「撤去、出来ないのよ。」


「……は?」




母の話はこうだった。


石の撤去をしなければ工事が進められないのだが、石を撤去しようとする度、不可解な事件が起きるのだという。


たとえば、運ぼうとすると近くの池に落ちたり、コケたり、怪我をする。

機械を使おうとするとその機械が壊れる。

破壊しようとしても、どうやっても石に負けてしまうのだという。


色んな業者に撤去を頼んでも、音をあげて撤去出来ないのだ、と母は気味悪そうな顔でいう。



そんな中、私は胸の高鳴りを感じた。



「ねぇ、お母さん。」


退屈を感じていた私にとって魅力的なその話。


「私、その家住んでもいい?」

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