大きな種

ある休日。

昼前に目を覚ますと、妙に大きい種が机の上に置かれていた。


「大きい種」



これはなんだろう、以前に、どこからやってきたのかがただひたすらに謎だった。



去年から一人暮らしをしているが、妻はもちろん、彼女すらおらず、合鍵を誰に渡したわけでも無いのに、そこには確かに見慣れぬ大きな種があった。


とりあえず文明の利器を活用してあれやこれや調べたがあまりよく分からなかった。

とりあえず無害そうなので、育ててみることにした。


警戒心とか、そんなことを言われたら何も反論出来ないが、気になるのだから仕方ないだろう。


それに、妙にやる気が出てきているのだ。

その大きな種の存在を把握してからは、面倒な植物を育てるという行為に興味が湧いたし、いつもは休日は引きこもっているのになぜかホームセンターに向かって植木鉢を買おうという気さえ起きた。不思議だった。


ホームセンターで植木鉢と土と、必要なものを諸々買って、帰ってきた。

趣味と言えるほどのものもない自分には、それくらい余裕でどうにかなる程のお金があったのだ。


とりあえず適当に埋めて水をあげてみた。


しばらくはぼうっとその植木鉢を眺めていたが、そのうち飽きて、いつものように何も無い休日を過ごしていた。


次の日、目覚めてすぐに植木鉢を確認した。

すると、ぴょこりと新緑色をした小さな目が土から顔を出していた。


植物を育てたことのない自分にはどれくらいで発芽するのか予想は全くつかなかったが、流石にこれは早すぎるな、と思った。


しかし発芽したものは仕方ないし、どうにもならないので、いつも通り会社に出勤して、しっかりと労働した。




その大きな種はすくすくと成長した。

1週間で花をつけ、そして種を作った。


どういう事だろうと思ったが、その花を見ると妙に元気が出たし、その種を持つと、やる気が出た。



後々考えてみると、その大きな種が置かれていた日から、自分に活力が宿ったような気がした。


前までは何もかも無気力で、面倒で、物静かだった僕が、何故か今はやる気に満ち溢れた元気な明るい青年に様変わりしている。


もしかしたら、いや、きっとこれが元の自分なのだろう。


職場の仲間には少し驚かれたが、そっちの方がいいね、なんて言って、受け入れられているし、なぜか今の方が仕事が上手くいっている。



これは勝手な想像だが、きっとあの大きな種は「気」の種だったんだと思う。

大人になって、なにもかもを何処かに落としてきた僕に、誰かがさずけてくれた、「気」の種。


やる気や、元気、過去の僕に無かった物が、今の僕には溢れかえっている。



あの大きな種は、僕のやる気を引き出してくれた、とても偉大な種だ。

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