必死な小判


「へへっ、完璧だな」


懐に入れられて、駆ける衝動に体が揺れる。

やばい、酔いそうだ。

人からくる揺れっていうのは、どうしてこうも…


「おい、お前!聞こえてるんだろ!」


「…あんだよ、あんたもどうせ盗人だろ。

…俺ァただの小判だ。対して価値はないぜ。命懸けで盗み出すようなモンでもないだろ」

「おお、なかなか喋るじゃねえか。…へぇ〜…にしても、喋る小判ってのは、本当の話だったんだなぁ。」

「ケッ、俺だってなぁ、好きで喋ってる訳じゃねんだよ、察しろや。」


なんだよこいつ、一人でケラケラ笑いやがって。気持ちわりぃ。


「なあ、お前、主人の元に戻りたくはないか。」


唐突過ぎるその言葉は俺にとってはとても重要なことであった。


「知ってるぜ、お前がどれだけ必死か。」


なんだ、こいつ、いったい何者なんだ…


「人を探すには一番流通してるもんに化けるのが手っ取り早いもんな。なぁ?化け小判さんよぉ。」


全てお見通しって訳か…。


「…お前、その発言取り消しなんてできねぇからな。」

「ああ、盗人に二言は無いぜ。」

「罪人の言葉なんか信用出来るわけ無いだろ。」

「ははっ、言うねぇ〜!やっぱお前面白いなぁ。」


とりあえず動く足のない今はこいつを最大限に利用するのが一番手っ取り早そうだ。


「…さっさとあの人の元へ案内しろよ。さもなければ…容赦はしない。」

「へぇ〜マジでお前必死なのな。ま、いいや、じゃ、しばらく宜しくな、相棒。」

「チッ、勝手にほざいてろ。」

「お〜怖」


何だっていいんだよ、あの人の元に帰れるなら、なんでも。

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