見事なカメラ
「こりゃあ見事なもんだなぁ!」
居間にそんな声がこだました。
「そうでしょう、そうでしょう。なんてったって最新式のカメラですからねェ」
嬉しそうな男の声も聞こえた。
「あんた、そんな触って壊したらどうするんだい、やめとくれよ。」
「なあに、大丈夫大丈夫、にしても…はぁ〜、こりゃあ立派だなァ。」
夫婦のやりとりが聞こえる。
いつもこんな感じで女性が男を窘めている様な光景をよく見るが、男は懲りるどころかいつも変わらない調子だし、女性は呆れながらもどこか楽しげな様子だった。
「そりゃ立派ですよ。ドイツ製ですからね。今の流行りはこれですよ。」
洒落た洋服を着た男性は誇らしげにちょび髭を撫でた。
「はぁ〜にしても相変わらず凄いねぇ、最近も洋式の家を建てたんだって?」
女性はマッチを片手に持ち台所に向かいながら感嘆の声を上げる。
「ああ、あれは妻がどうしても、といったので。なかなか慣れませんが、まあ、それなりにいいものですよ。」
その言葉に夫婦揃って感嘆のため息をつく。
「俺らは牛鍋だってまだなのになァ。」
「だから結婚記念に行こうって言ったのに。あんたったら…」
「ホ、ホ、ホ、いいですねェ。では奥さん、今日の夕飯の準備はしなくていいですよ、私からお祝いさせて下さい。」
文明開化の音はまだ聞こえたばかりだ。
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