ハゲ散らかした空き缶


その空き地には、いつもその空き缶があった。



誰が捨てたのか、いつからあるのか、誰も知らないが、確かに空き地にはいつもパッケージがハゲ散らかった空き缶、通称「ハゲ缶」が落ちていた。


放課後になると、みんなその空き地に集まってそれぞれ自由に遊んだ。

そしてたまにみんなで集まって缶けりをするのだ。

その時に活躍するのがそのハゲ缶だ。


丁度いい大きさに、いい具合のへこみ加減。

なによりよく飛ぶのが良かった。


缶けりをする時には、まずはみんなでハゲ缶探しから始める。

ある時はベンチの下、ある時は滑り台の上、ある時はうんていの足元、ある時はジャングルジムの中にそのハゲ缶はポツンと落ちていた。


見つけたやつが、まずは鬼。

そして鬼が指名した人が鬼その2になる。


暑い日も、寒い日も、ハゲ缶は缶けりの時には大活躍した。


そして5時をしらせるチャイムがなると皆は途端にその空き地から出ていく。

ハゲ缶はいつも子供達を見送り、ただ一つポツンと公園に残されていた。




ある日突然、誰かが新しい缶を持ってきた。


最初はみんな新しい遊び道具に興味津々で、暫くハゲ缶は存在を忘れられていた。


しかしまた、誰かが突然ハゲ缶の方がいい、とポツリ零した。



そしてその声を皮切りにハゲ缶大捜索が始まった。


今回は砂場に半分埋もれていた。


そして今日もまたハゲ缶で缶けりが始まった。



カコーン



少し懐かしい軽い音が妙に落ち着いて、チャイムが鳴り響くまで夢中になって缶けりをしていた。



カッコーン



夕暮れに伸びるハゲ缶の影はいつもと同じ、少し歪な小さな影だった。






その空き地には、いつも空き缶があった。


誰が捨てたのか、いつからあるのか、誰も知らないが、確かに空き地にはいつもパッケージがハゲ散らかった空き缶、通称「ハゲ缶」が落ちていた。

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