護国と鬼
「あ?」
ブランコの探検に忙しい黒犬は、顔も上げずに応じる。
「一番合戦さん、
「あの、領主じゃなくて、国に仕える鬼討か?」
「うん。どうするのかなって」
「どうも何も、姉ちゃん全然乗り気じゃねえじゃねえか。断るんだろ」
「今はね。でも、先の事なんて分からないし。もし入るってなったら、僕もついて行く事になるけれど、君は何か意見はあるのかなって」
「ふうん。姉ちゃんはスカウト、お前は一般の枠から、試験だの何だの受けて、後から追い付くって予定か?」
「まあね。護国衆に入るって事は、一般の鬼討の組には属さないって事になるし、それならもう関わりは完全に絶たれる事になるから、枝野組も九鬼家の神刀を持ち続けている理由が無くなるでしょ? その旨を話して返して貰ったら、一般枠から何とか食い込もうかなって」
「凡人でも入れるもんなのかね」
「……凡人って。一番合戦さんや、彼女の場合は特殊なんだよ。鬼討の体質から、護国衆って慢性的な人手不足だし、公募枠は結構広いんだ。優秀な人達へのスカウトも活発にされているけれど、一般から入る人が殆どだよ。天才じゃないと入れないとかじゃないし、鬼討としての基本が備わっていれば、結構誰でも。……それでも人気が無いから、ああいった必死な勧誘があるんだとは思うけどね。少ないなら少ないで、せめて出来る人が欲しいって。若い人なら長く勤めてくれるから、組織としても安定するし。それに、一番合戦さんみたいな組のしがらみが一切無い人って、狙い目なんだよ」
「ふうん。海を越えようと、国と地方とは対立するものってのは同じなんだな……。? いや、それとは違うか。別にお前ら鬼討って、政治に直接関与はしねえよな?」
黒犬は、足を止めると僕を見る。
「それは無いよ。護国衆もあくまで国に関する百鬼絡みの仕事を担うだけで、そういう政治的な、国と地方の不仲とは違うね。国が何やってようと、組の運営って独立してるから、護国衆が何してても鬼討には関係無いし。国も組への介入とか、拘束力は持ってないし」
「それって何か変じゃねえか? 要は国と組は別物で、組は言ってみれば小さな国だろ? 関係無えならわざわざ反発しなくても、無視しててめえらで動いてりゃいいじゃねえか。対岸の火事にイラつく理由なんて無えだろうに、何で鬼討は護国衆が嫌いなんだよ?」
「……うーん……。護国衆とは組を捨てて、国に付いた裏切り者とか恥知らずって、鬼討が思うからかな」
「裏切るも何も、確かにこっちの力は落ちるが、向こうが襲って来たり何かしてくるって訳じゃねえじゃねえか。言っちまえば引っ越しだろ? 恥って、何が恥なんだ? 何かやったのか護国衆」
「あー……。えっと……」
まあいいか。隠すような事でもないし。
鬼討と関わっている立場上、知っておくべき話である。決して、楽しい話ではないんだけれど。
「……護国衆って言うか、国がね。もう幕府の頃の話だけれど、昔百鬼絡みで悪い事をして、それから鬼討は国が嫌いなんだ」
「バクフ?」
急に何を言い出すのかと、怪訝な顔をされた。
ああそっか。外国生まれだから日本史なんて知らないか。
「……えーっと、今から丁度三六〇年前の、江戸時代って頃の話だよ。当時は政府の事を、幕府って呼んでたんだ」
「へえ。三六〇年。百鬼としては割と最近だな」
「人間としては、大昔だけどね」
この時間感覚の違いも、きっと人と百鬼を隔てる、大きな溝の一つなんだろう。
人は自分のやった事をすぐに忘れて、無かった事ぐらいにまでして、何も償わずに死んでいく。
百鬼は全て覚えていて、だから暴れ回るのだ。何とお前達は小さく
人間は人間だ。そいつ一人にこだわっていたら、この恨みは、憎悪は、償われない所か、ぶつける相手すらもすぐに失せてしまうと。
そう考えるとその人間を守ろうとする鬼討とは、何なのだろうと考えてしまう時がある。当然鬼討達はその答えを、誰しも心に刻んで戦っているのだが。
「その頃に、火事が起きたんだ。震災や戦災を抜いた、純粋な火災では、未だこの国で一番大きい」
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