「……ぶっ飛んでるも何も、塗り替えられていくのが記録じゃないか」
僕が気付いたのは去年の一二月頃だけれど、多分変えたのはもっと早い時期だと思う。クラスの女の子が一番合戦さんクリップ変えたよねって、話をしていたのをたまたま聞いた。
最初はあの戦いで壊れてしまったのかと思ったけれど使えていたし、縁起が悪いと捨てたのだろうか。
あれから一番合戦さんは、人狐の話をしなくなった。奴が擬態していた偽物の鬼討、
彼女の事は表向きには、転校したと処理している。一部の先生には真実を伝えているが、 生徒には伏せている状態だ。
百鬼は語られて生きる者。必要最低限の認知度に抑え、新たな因子を生まない為の判断だ。鬼討ならまだしも、素人は無闇にこちらの世界と関わってはいけない。噂という形で力を与え、引き寄せる事になってしまう。
急な事にクラスも動揺していたが、それも一ヶ月も経てば話されなくなった。三年生になってクラス替えも済んだ今では、まるで最初からいなかったかのように語られない。
勿論覚えてはいるだろうが、気にならなくなったのだろう。時間の力とは凄まじく、残酷なものだ。生徒達に彼女の正体が語られる日は、永遠に来ないだろう。
一番合戦さんもその内話すと、何か彼女について言っていた気がするが、気持ちの整理がついて、気にならなくなったのかもしれない。そんなもので、いいと思う。
僕が半百鬼となったのもあると思うけれど、あの後の一番合戦さんは、本当に酷かったから。ショックの余り二週間ぐらい、魂が抜けてしまったようにぼうっとしていて。
「越して来る奴の素性も気になるけどな。犬や
「え?」
隣に追い付いていた僕を、一番合戦さんは見る。
「普通ある程度の情報は開示するだろ。引っ越す人間に原因がある事だってあるのに。名前も出さないなんて、役所は一体何を考えているんだ」
「あー……」
この市役所からの依頼、土地を調べる際は、引っ越して来る方の経歴なども提出して貰うのが一般的だ。土地そのものに問題は無くとも、引っ越して来る方がそちらの土地から連れて来てしまう事もあり、可能ならば
確かにこちらとしては開示して欲しいのが正直な所だ。ちゃんとやったのにそちらが連れて来てしまっている事に気付けず、難癖を付けられるのは堪らない。そもそもその場合、向こうの鬼討が怠慢な所為になるのだが。そういう意味でも困る。
「何か拒否されたらしいよね。越して来る人が嫌だって」
「その時点で怪しさが滲み出てるけどな。百鬼が越して来るんじゃないだろうな図々しい」
「まさか」
「役所も怠慢だ。ちゃんと説明したんだろうな……」
「まあまあ」
ぶつぶつ不機嫌に言う一番合戦さんを、宥めるように笑う。
一番合戦さんはお役人が嫌いらしい。
真面目なイメージなので、何だか意外である。 警察官とか似合いそうだけれど。
「馬鹿を言うな」
怒られた。
「役人は嫌いだ。お上も嫌いだ。 鬼討を辞めても役人にはならない」
「まあ鬼討って役人ぽい所もあるけどね。その地域の為に働くから。常時帯刀者にもなると、有事の際は国からお声がかかる事もあるんでしょ?」
「私はこの町で唯一の鬼討だから離れられませんと、審査の前に予め言っといた」
「よく通ったね……」
何と強気な。
審査とは、常時帯刀許可審査の事だろう。そう言えば一番合戦さん、何歳で取得したんだ?
「中三の夏」
卒倒するかと思った。
「小六の時に先代殿が亡くなって、中一で鬼討になって、中二から常時帯刀者の勉強を始めて、中三の夏休みに取った」
「独学だよね?」
「ほぼ。先代殿の家から貰った指南書を読んだりはしたが」
言葉が出ない。
世の剣豪と呼ばれながら、辿り着けていない鬼討達が聞いたら何と言うか。
「僕中学の頃って何してたっけ……」
「私が知る訳無いだろ」
ぶっ飛んでるのにまともな事言ってる。
「何だその目は」
「別にぃ……」
ほんと天才って、一人で歴史を変える。
それさらっと言ってるけれど、多分最年少記録でしょ。
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