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「――そうだね」


 暗い顔で言う彼女を、励ますように微笑んだ。


 いずれ私は、彼女に殺されて死ぬだろう。そんな気がする。

 何だかんだ私は、この忌々しい女に敗北するのだ。


 幼稚で繊細で、純粋な彼女の事である。四〇〇年も過ぎた過去に懊悩おうのうし、勝手に責任感と罪悪感に苛まれ、挙句結局私を斬って、この町を守るのだ。勝手に心に、私という傷を作って。


 所詮は余生。あの人がいなくなった時点で、もう意味など無い人生である。


 いいじゃないか。 この愚か者の、淡い夢に付き合っても。


  そうして背を向けて歩いて、必死に敵意は無いと暗に訴えてくるそのさまを、滑稽の極みだとわらっても。私が自ら真実を語り始めるのを、今か今かと待ち侘びているそのざまを。


 お前もどっちでもいいと思ってんだろ。一番合戦?


 別に町さえ救えりゃあ、俺と相討ちで死んでも構わねえってな。


 ただ悪と断じ斬り捨てる事は出来ねえだの、申し訳無えだの、でも償い方が分からねえだの、もし恨みを晴らしたいのなら自分を殺せって、グダグダしっかり考えて決めてんだ。


 だから黙認してんだろ? 俺が猫だ兎だ人間のペットを、野生の獣達を何匹殺そうが。そうやって知らねえ面して涼しい顔で、防げる筈の餓者髑髏の発生を、分かって見逃しているように。てめえも立派な、罪人だな。


 選べねえんだろ? 俺か町民か。


 もう今や、どっちもどっちなんだからな。


 全くあなたって人は、本当に腹立たしい。


 こんなの出会い方さえ間違っていなければ、友達になっていたじゃないか。


 ただ一人の主よ。あなたはきっと、彼女のような人を待てと言ったのでしょう。残念ながら少しだけ……。少しだけ、遅かったようです。最後まで言い付けを守る事が出来ず、ごめんなさい。


 せめて、破った先で出会えた彼女に、最期を見ようと思います。この四〇〇年で溜めに溜めた、力と恨みの全てを用い。


 私の四〇〇年を突き付けるような、このひとりぼっちの哀れな剣客に。


 獣の死骸ぐらい、死体・・じゃなくて死骸って言いなさい。


「頑張ろう一番合戦さん。今は私もいるから上手くいくよ」


 そうやってまた明るく笑いかけ、意味の無い元気を与える。


「……そうだな」


 もう見慣れて来たかもしれない。何とも言えない彼女の笑顔は、吹き出しそうになってしまった。


 どんな顔をするのだろうな。餓者髑髏がしゃどくろの件も、並行して起きている動物達の変死も一般人共に気付かれて、とうとう相談された日は。


 嫌々斬るのだろう。泣く泣く斬るのだろう。本当は納得などしていないのに、追い詰められて追い詰められて、何とも思ってないような涼しい顔で。


 きっとその散り際は美しい。私達の血より、あなたの炎よりも赤く。怨嗟えんさと虚しさにまみれた、深紅の嘘に輝くのだ。


 私は歩く。その日が来るまで、一番合戦さんの隣を。


 あなたがその刃を、


「行こう」


 私に振るうまで。

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