01
赤き剣豪
「へえ編入……。大変だったなあ」
案内役を務める少女は、顎に手をやって呟いた。
少女と言っても今日からクラスメートになる人で、口調通りきりっとした顔立ちと、すらりとしながらスプリンターを思わせる長身は、実年齢より大人びた印象を与える。
この高校の制服が、よく似合う人だと思った。濃紺のブレザーにストライプの入ったグレーのスカート。デザインは男子も同様で、スカートがズボンに変わるだけ。
長い髪を二つの髪留めで纏め、何故かスカートの下に七分になるよう裾を折った赤いジャージを穿いている。ジャージから覗くのはハイソックスなのかタイツなのか判別出来ないが、取り敢えず黒い布。冬でもあるまいしハイソックスか。足においては一切肌を出していない事になる。
ネクタイをしていない第一ボタンだけ開いた胸元と言い、全体的に少しラフな感じは、運動部を思わせた。
ジャージがヤンキーと思われるかもしれないが、振る舞いがきちんとしていてしっかり者という印象しか無く、怖い所か大変頼りがいがある。同じ一七歳とは思えないぐらいだ。
現に約三〇分前の待ち合わせ時間に、一秒の誤差もなく現れている。
「案内役の
一番合戦さんは気さくな挨拶と共に、肩から提げていたスポーツバッグを近場の席に投げ置いた。
多分自分の席なんだろうけれど、かなり大雑把な扱いである。
僕は唐突だったのと座りっ放しは悪いと思い、慌てて席を立つと名を名乗る。
「は……はじめまして。
「九鬼」
一番合戦さんは畏縮する僕の名を確かめると、さっぱりと笑った。
「うん。宜しくな」
挨拶もそこそこに廊下に出ると、学校案内が始まる。
二棟四階建て。公立高校だしそこまで広くはないけれど、初めての場所だと迷路のように見えてしまう。
多分一番合戦さんはいきなり全部教えても、覚えられないと配慮してくれたんだろう。通る教室から思い付いたようにぽんぽん説明するんじゃなく、僕達二年生がよく使う教室を中心に、使用する授業の内容を交えて教えてくれた。
これがまた簡素かつ頭に残る語り口、食堂や体育館の更衣室まで抜かりなく、もう秋だから使わないけれど来年は行くからと、プールの説明のオマケ付き。事務的な作業を一切感じさせない、実に充実したオリエンテーションだった。
先生の話もこれぐらい分かりやすかったら、誰も居眠りしないのに。
そして冒頭の、大変だったという台詞に戻る。
「まあ前の学校と、そんなに難易度は変わらない所を選んだから」
一番合戦さんが気さくな上説明上手だから、人見知りの僕には珍しく、早々に口調が砕けている。
「うーん成る程な。まあそれでも母校を変えるというのは、それだけで重大だろうに。キリよく始業式に来れたらよかったのになあ……むあ」
これはまた。
大きな欠伸で言葉が切れた。
結構人目を気にせず欠伸をする人らしい。何だか意外な印象だった。男勝りと言うより凛としており、女の子らしさはしっかりある人なので。大小のクリップ二個使いで髪を纏めている所とか。どう見ても朝から面倒そうなのにわざわざ二個使いというのが女子力高い。
クリップは黒の至ってシンプルなものだが、髪留めのデザインではなく、髪型へのちょっとした手間というさりげなさが粋を感じる。
やっている事はただのフルアップなので媚を売るというか可愛らしさを演出するようなものでもないし、大人でも普通にするような髪型だ。寧ろ大人の方がやってると思う。中高生でフルアップをしてる女の子ってあんまり見ない。
どうなってるんだろう……? まずは耳の上の髪を両サイドから真後ろに纏め、捩じって作ったお団子を小クリップで留めている。残りの髪はがさっと一気に纏めて、同じように捩じって作ったお団子を大クリップで。シャツスタイルが似合う髪型だ。一七〇センチ近そうな長身だし凛としてるし、ブレザーが本当に似合う。
ってそうだ。
一番合戦さん、一〇月なんて変な時期に越してきた僕の為に、担任の先生から案内役を命じられてここにいるんだ。
「あっ……ごめん。今日もしかしてこの為に早起きして……」
「いんや気にするな」
一番合戦さんは、目を擦りながら手で制す。
「眠いからしただけだし、生理現象に謝意なんて要らないだろ」
そう笑ってみせた途端、「ま、案内人が心配させるのは失格だな」と自嘲した。
厳しい人である。あんなに上手だったのに欠伸で失格とは。
この人のルールで生きていたら、何回失格になるんだろう。
「まあそれはいいとして。お前、許可証を持っていたりするか?」
一番合戦さんは言いながら、腰に差した日本刀に手をやった。
一目で手入れが行き届いていると分かる、正に愛刀。
シンプルなつくりだけれど、
西部劇に出て来るガンベルトのような黒い革のホルダーを腰に巻いており、そこに収納されている様が時代劇でよく見る、佩刀した状態に見えるのだ。
一番合戦さんの
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