第8話 三千里で済むか?

 目が覚めてすぐお腹の下を覗き込む。ナニもない。なんにも無い。

 やった、無性別だった。ありがとう神様。

 そういえば夢で私卵の中に居た。私卵生生物か。あれ、でも親はいないし生殖器ないし。む、無機物………じゃないよね。ご飯(虫)食べてるし。

 今日のブレックファストはクワガタ。フィッシュバーガーっぽい。この辺の甲虫はバーガー系が多い。カメムシは臭くない。マンゴー味。まさかの美味しさ。


 思い付いて木の幹を引っ掻いてみる。樹液が滴る。舐めてみる。こ、これは…!ぐ、ぐれーぷじゅーす!美味しい!なんという粋な計らい。

 うーん、食事は困らなくて楽だ。ただ鶏肉が食べたい。でもお腹は満たされてる。虫は美味しいけど量はない。木の実でいっぱいになる感じだった。

 木の実が主食で他は副菜?間食かな。羽虫みっけ。これは飴ちゃん。今度はブルーベリーだった。おいし。

 でもそれでも鳥が食べたい。猫になれた今。無性別になれた今。唯一の執着かもしれない。今さら愛されようとは思わないのだから。あ、今水の妖精さんに似てた?



 私はまた進み始める。今日は壁の近くを飛ぶことにした。持久力つけたい。余裕で飛べるようになろう。辛くなってきたら壁に乗って休む。毛並みを整えて落ち着く。時々居眠り。

 ずっと天気は晴れ。薄く曇ることはあるけど雨降りはない。安心してお昼寝できるよ。ぐーぐー。

 マイペースだから平気でやってる、けど他の誰かにあーしろこーしろ言われながらだったら絶対やんない。絶対だ。反抗期?反骨精神?何でも良い。だからこれは努力とは呼ばないよ。努力とは。必死でやってるわけじゃないもん。

 やりたいからやってるだけ。だからやれる。


 うむ。今更ながら目標ができたね。余裕で飛べるようになること。あと鳥食べる。それから、生まれたくて生まれ変わったつもりもないけど、猫になれたんだから生きる。猫生満喫したい。

 当面はこれらを目標、指標にして。飛びながら鳥探しだ。うん。


 いるかな、鳥。もしくは鳥味の生き物。獲物。





 考え事したら小腹減った。あ、ナナフシ。おお、プレッツェル。ぽりぽり美味しい。

 さあまた練習。ぱたぱた、かきかき。羽ばたきと猫かきで移動。

 しばらくやって飽きたら休む。耳裏が気になるので後ろ足でかいかい。

 ひと息ついたらまた進む。ぱたぱた、かきかき。ぱたぱた、かきかき。ぱたぱた………。

 んーーーーー、飽きるよね同じことの繰り返しって。でも繰り返す。

 休憩挟んで適当におやつをつまみつつ。

 また壁から足を離して飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。

 ん、私今どこ動かしたっけ。羽、動いてない。足、動いてない。でも落ちてない。飛んでる。いや、浮かんでる?ああ、なんかあったかい。

 眠るときに感じる暖かさだ。これ、なんだろう?

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