第7話 寝ると夢見る。

 私はまた壁に登り歩き続け時たま飛んで進み続けた。

 暗くなってまた今日という日が終わる頃、針葉樹を見つける。

 寝床は木の上で決定。最初よりずっと上手くなった羽ばたきですいすいと枝に乗る。案の定てっぺんにはひとつだけ実が成っている。

 どういうわけなのか知らないけれど実はひとつきりと決まっているもののようだ。

 私は少し成長した。前足が届きやすい。引っ掻き傷の少ない実がとれた。私の体の方がほんのすこーしだけ大きくなった。それでも実は大きな果実だった。ひとつ食べきると満足の溜め息が出る。美味しかった。ごちそうさま。

 丸く小さな香箱になって木の上で寝る。夢の世界に入っていく。今日はなんの夢を見るのだろうか。




 薄暗い林の中に私がいる。人間の私だ。嫌な気分になる。

 愛されない自分が嫌いだった。努力できない自分も嫌いになった。前にも後ろにも行けなかった。自分はたぶんそうやって助けを求めていた。同時に助けの手など要らないとも思っている。

 そういったすべてが疎ましいと感じていた私。これをきっと黒歴史というんじゃないだろうか?

 家に帰ると怒られる。学校へ行くと気持ち悪い。どこにも居場所なんてなかった。

 本を読んだ。愛されてる人ばかりがそこにはいた。羨ましかった。愛されてみたかった。でも生々しい愛は吐き気がした。私にはできないだろうと思った。

 幸せって一体何の事だろう。

 夢で見てもやっぱりわからなかった。


 冷たい。頬が冷たい。濡れてる。まだ、涙、出るんだ。





 体が重い。だるい。香箱が緩む。ぐて、と伸びる。私は猫になった。でも猫じゃない。羽のある猫。少し大きくなった子猫。

 またお腹があったかい。食べた実が消化されているんだろう。実が溶け出してエネルギーになって全身に染み渡っていく。馴染んでいく。グレーの毛先が光る。ほわほわと蛍火のように柔い光。暖かい光。

 ゆっくり光が消えると私は大きくなる。ゆっくりゆっくり大きくなる。きっと明日には大人猫。

 あれ?猫って言ってもこんなに成長早くないよね。生殖可能になるまで一年はあったはずで、あれ、私って女子なの男子なの。どっちなの。

 猫になっただけで喜んでてそこは確かめてなかったよ。人間じゃないのはいいけど性別あると面倒な気がするな。有機生物としては必要なのかもしれないけど私無理な気がするし。前世の経験から言って子育てなんて無理と思う。虐待しそうで怖い。


 神様。この世界に神様がいるなら、私に性別つけないでください。

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