第4話 魔力の実。

 ドイツの黒い森にあった針葉樹みたい。

 いや今は黒森になってるかも。どうだろう。記憶が遠いな。

 とにかくとがった木のてっぺん辺りにひとつだけ実がっていたのである。

 甘いものは好きだ。

 人間だった頃と体が違うけど好きなものを好きなように食べたい。虫は不可抗力と思いたい。

 とにかく、だ。美味しそうなまあるい実をちょいちょいと爪で引っ掻けてもぎ取る。大きいけれど猫型のバランス性能のお陰で上手く取れたので両前足でお腹の辺りに抱え込む。

 でっか。子猫の体と同じくらいだよ。引っ掻き傷がついているのはご愛嬌と笑ってほしい。

 木の上で私は大きな果実にかじりついた。

 甘ぁーーい!

 某芸人が脳内で絶叫する。それくらい、甘い。でもほんのり酸味があって丁度、美味しい。しゃくしゃくと軽い咀嚼音。食感はリンゴみたいだ。

 お陰でかなり大きかったのにペロリと平らげてしまった。ごちそうさまでした。肉球を合わせて拝んでおく。美味しかった。喉が鳴っちゃう。ごろごろごろ。

 ペロペロと前足を舐めて顔を洗うと香箱を組む。

 さすがに疲れたし、夜目は効くけどそろそろおねむなので。丁度、外敵も登らなそうな木の上だからもういいよね?じゃあ、おやすみなさい。




 転生したてでたくさん動いたお陰で心地よい疲労感ですぐに眠りに入った私は何故か卵の中に居た。

 何を言ってるかわからないだろうけど私もわからない。

 でもたぶんこれは私の生まれる前の記憶だと思う。

 透明な羽と似た質感の卵の殻に揺られる今よりもっと小さな小さな私。

 ゆらゆら、ゆらゆら。気持ちいいゆっくりした揺れは風が起こしているようだ。

 透明な殻の向こうには人も猫もいない。でもゆっくりと卵は揺れている。

 この私に親、という存在はいないらしい。少し、ホッとした。気を遣う存在はいないんだ。その代わり、無条件に頼る存在もないが。

 気が抜けたのかとろとろとまぶたが降りてくる。


 夢の中の夢の中へ。意識が落ちていく。

 小さな小さな私は今の私になる。徐々に大きくなる。

 でもそこで止まらずもっと、大きくなっていく。卵より、木より大きく、育っていく。蛍みたいに発光しながら、大きく。

 なんだかお腹があったかい。暖かい塊がゆるりとほどけて流れ出す。全身をゆったりと、爪先、毛の先、尻尾の先まですべてに染み渡っていく。髭がピリピリと震える。馴染んで溶けていく。

 暖かいモノが全身に行き渡り馴染みきって光が消える頃には私は木の枝に四肢をだらりと伸ばしきって熟睡していた。ダリの絵みたいに。

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