第3話 飛ぶ。

 自慢の四つ足で力強く大地を蹴り、走る。駆ける。跳ねる。そして、


 私は飛んだ。




 何度か狩りをしてお腹がくちくなると、自然とまぶたが降りてくる。

 寝子。

 寝る子から猫になったとも言われるのだ、しかも子猫である。

 食べたら寝るのは当然だ。

 しかし私は転生したばかり。

 もっとこの四つ足を堪能したいと思った。


 小さな子猫の目線ですべてを視認するのは難しい。

 視界は低く視野も狭い。

 けれどとにかく体全部を使って回りを見る。

 土の見える大地にささやかな草と木と、さっきの水溜まり。

 あとは大きな大きな壁がそびえ立っている。絶壁だ。

 しかも長い。万里の長城か?反対側はずっと荒れ地が続いてる。ように見える。先が見えない。土煙、土ぼこり?で。


 あっでも少し崩れたところがある。

 私はそこに上ってみる。軽々と。軽々と、だ。細いけどたくましい私の四つ足。うふふふ。

 鼻唄が出そうな具合で、私は瓦礫の山を登った。

 登頂ー!

 素敵な眺め……はないけれど、空がきれいだ、と思う。

 壁の上から覗き込んでもあちらもこちらも景色に変わりはなかった。

 でも高いところは気分が良い。猫になったからだろうか?

 私は足取り軽く細い壁の上を歩いて、走って、角で跳ねる。

 その先に足はつかない。壁が消えてなくなっていた。いや、踏み外した?

 中空へ投げ出された体は大地へと落ち…なかった。

 私は飛んでいた。

 猫なのに。ただの猫なのに!なんで!?

 あわあわと前足で空気を掻いて、掻いたら、進んだ。

 ちょっと落ち着いた私は犬かきならぬ猫かきで、壁の上に戻った。はーはー。

 ちらりとそこを見る。背中を見た。透明な何かがある。あった、ありました、羽、が。羽。私、猫。猫、じゃなかった?

 私、何なんだ?首を捻る。でも、人間じゃないから、良いか。良いことにする。

 私、飛べるんだ。鳥になりたいと思ったことはなかったけど。

 ………よし、飛ぼう。そしたら鳥も狩れるかもだし。


 こうして私は飛んだのである。


 よちよちと。


 どうやら羽も子猫、いや小鳥、いや何だろうね?とにかく幼いらしいよ。

 要練習かな。

 まずはこの壁を使って練習を重ねようと思う。

 いつかあの向こうの木に飛び移れるようになるんだ。

 挑戦してみる。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。

 木にたどり着く前に羽だか足だかから力が抜けてしまい、途中で引き返す。落ちるの怖い。だから飛び降りはできなかったのに。

 何度も暗くなるまで繰り返した。

 辺りが真っ赤に染まる頃、やっと私は木にたどりついた。そう太くもない木の幹に爪を立ててしがみつく。やったどー!

 枝の上にお尻をついて座ると上を見上げる。木の先端近く、細い枝の密集したところに一つの実があった。


 今夜のディナーは果物だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る