第4話 秘訣

橋姫はしひめちゃんの人気の秘訣ひけつって何かな?」


「それは違います!」


 それはとある放課後のことである。

 クラスで一番の問題児の東屋あずまや行幸みゆきと、クラスで一番の美少女の橋姫若菜わかなが会話していた。

「やっぱり、橋姫ちゃんってモテるでしょ?」

「え? ……まあ、恥ずかしいですが、そうですね……」

 頬を赤くして、困り顔を見せる橋姫。

 実際にそうである為に、下手に謙遜けんそんすると嫌味になるだろう。そのレベルで橋姫にはファンがいる。

「橋姫ちゃんの人気の秘訣って何かな?」

「それは違います!」

「えっ? 違うの? 秘訣じゃないの!?」

「はい、そうです」

 驚くことに話が成立している。

「じゃあ、そのままってこと?」

「? ……そのままではないですね」

 いや、成立していなかった。

 話が食い違っていたままのようだ。

 橋姫が切り替えて説明を始める。

「東屋さん。この場合、は誤用です。秘訣とは人に知られていないとっておきの方法という意味で、人気には不適切です。を使うのが良いと思います」

「へぇ~。そうなんだ。じゃあ、こういう物知りで、しかも優しく教えてくれるところが、人気の秘密なんだね」

「そ、そんな……照れますね」

 と、はにかむ橋姫。

 おそらく『物知り』と言われたのが余程嬉しかったのだろう。

 何故なら彼女は日々、図書館や書店にて日本語の研究を人知れずしているからである。

 さまざまな小説から若者向けの雑誌、さらには重い辞書の隅々まで調べ、日本語を学んでいる。

 それが、誤用を指摘する橋姫若菜の日本語

 その努力が認められたのだから、さぞ喜んでいるのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誤用にゴヨウじん⁉ 井久路瑞希 @ikuzimizuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ