第7話「バンドやろうぜ!」

 小中学時代の友達、というか生まれた時からそこにいたような幼馴染の近所の友達、チャッピーには良く会っていた。ただ黙って漫画を読んだりするだけだったが、高校に友達のいない僕には大事な存在だった。チャッピーの楽しそうな学校生活の話を聞くのは少し辛かった。自分のみじめな高校生活が、比較論でさらにみじめに感じられた。でも僕にとっては最悪な高校生活とはっきりと隔離された逃げ場。リラックスできるとても大切な場所だった。


 チャッピーも中学卒業と共にギターを買っていた。そして二人でギターを弾いて、あれこれお互いの疑問をぶつけ合ったり、かっこいい音楽を聴いてコピーしたりしていた。僕らはバンドブームにドップリハマり、毎日様々なバンドを聴いていた。「昨日のポップジャムのアップビート見た? 」とか「イカ天のマルコシヤバイよ! 」とか「ボ・ガンボス最高! 」とか、まあとにかく音楽の話をする割合がどんどん増えて行った。

 そして僕らは少しずつパンクにはまり始める。ブルーハーツ、ラフィンノーズ、スタークラブを入り口に、洋楽のニューヨークパンクのラモーンズ、ロンドンパンクのピストルズへと辿り着く。

 ある日、ピストルズを初めて二人で聴いた。CDをトレイに乗せ、再生ボタンを押す。最初の一音から僕らはぶっ飛ばされていた。何かわけのわからない衝動が自分の中に沸き起こるのを感じていた。その衝動に任せて、チャッピーは歌詞を聞き取ってカタカナで書き始めた。「アナハナワナサナユニャッソンニャ」と宇宙人の言葉を羅列するように英国から届いたメッセージを解読していた。僕らは何度も再生しては歌詞を解読した。そして大合唱していた。


 二人の行き着く先はバンド結成だった。それは口に出さなくてもお互いの頭の中を読み取るように、当然のように共有されたアイデアだった。二つの頭ではなく、一つの頭で考えた様な寸分変わらぬ決意だった。

 もう1人別の幼馴染に周りを畑に囲まれた、大きな音を出しても大丈夫な家に住んでいる「おのち」という友達がいた。そいつにドラムを買わせることをチャッピーが思いついた。いつだって悪事を考えつくのはチャッピーの方だ。そしてベースには中学時代の真面目な男「ヨコ」をスカウトした。ベースは真面目じゃなきゃいけない。確かそんな理由だった。そして僕らはバンドを始動させるべく奔走し始める。それは高校生になって初めて自分の意思で始めたものだった。僕は高校入学以来、初めてワクワクという気持ちを感じていた。

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