状況その2

「寝付けねぇ……」

 龍野は苛立っていた。すると、部屋のドアが静かに開く。

「(誰だ……? 狸寝入りして、様子を見るか……)」

 右手で握り拳を作りつつ、謎の侵入者を観察する龍野。

 やがて侵入者が正体を現した。

「(シュシュか……何の用だ?)」

 龍野は夜目が利くので、外からの僅かな明かりで部屋の様子をある程度探れる。しかしシュシュは慣れていないのだろう、手探りでベッドを探していた。

「兄卑―、どこー?」

「(俺は寝てるっつの!)」

「あっ、ここかしら?」

「(俺のベッドに何の用だ!)」

「あはっ、ここね。たくましいたくましい、兄卑―」

「(何てことを言いやがる! お前若干変態だろ!)」

「お邪魔しまーす」

「(この野郎……驚かしてやる。あわよくば襲っちまうぞ)」

「こんばんはー。熟睡してる、兄卑ー?」

「はぁいこんばんはぁ!」

「ひゃうっ!? 脅かさないでよ!」

「おう、お互い静かにしようぜ」

「う、うん……」

 数秒間、静寂が訪れる。

「さて、どうして寝込みを襲いに来たんだ、シュシュ?」

「襲いになんか……っ……」

「今回は『ふざけてない』ぜ。どうしてだ?」

「それはっ……。ふふ、そうね……。兄卑にお詫び申し上げに来たのよ……」

「へえ。聞かせてくれ」

「あのね……。今日、私おかしかったでしょ? 今でも、あの時の振る舞いを思い出したら……泣いちゃう、くらいよ」

 シュシュが、ぽつりぽつりと語り始める。

「どうしてあんなに拒絶したのか、今ではよくわからない。どうしてあんなに頑なだったのか、今ではよくわからない」

 龍野は黙って、シュシュの背中を撫で始めた。

「ふふ、意外と気が利くのね」

 普段だったら、龍野は「『意外と』は余計だ」と返していただろう。だが今は、シュシュの話す番だ。無粋なツッコミは要らない。

「けど、兄卑が……貴方が、力強く私に訴えてくれたお陰で……正気に戻ったわ。ありがと」

 ため息をついたシュシュ。話は一通り終わったらしい。

「さて、俺からも詫びねばならんな」

「何かしら?」

「あのな、まず男ってのは……恥ずかしがり屋なんだよ。お前ら女にはわからないだろうけど」

 シュシュは何も返さない。龍野の話を遮らない為だ。

「だからお前が水着で風呂に入ってきたとき、俺はあんなに戸惑っちまった。そして……

あろうことか、お前に嫌悪感を抱かせてしまった」

 シュシュは静かに、服の襟を握る。

「へっ……胸ぐら掴むくらいで許してくれるなら、喜んで掴まれてやるよ」

「許さない」

「え?」

 シュシュがぽつりと呟く。そして……


 龍野の唇を、素早く奪った。


「!?」

「ん……ぷはっ! やっぱり、兄卑みたいに長くは続けられないわ」

「おい、どういうことだ?」

「私の唇を乱暴に奪ったんですもの。お返しよ。それに……私を心配させた分も、含めてあげるわ」

「これだけで許されるなら、喜んで」

「許される?」

「へっ?」

「これだけで済むなんて、思わないで……! ウフッ、まだまだ罪を洗い流すには足りないわよ?」

「どういうこと、だ?」

「うふふ。私の今の服、見てみて?」

 龍野が素早く電気を付ける。そこには……


ヴァイスと同じドレスを纏った、シュシュがいた。


「…………」

「どうしたの?」

「いや……何というか、大人っぽくなった、な……お前!」

 二年前と比べて、膨らんだ胸。程よく幅が広がった腰。

「見とれちゃった?」

「ああ……!」

「ねえ……電気、消して下さる?」

「勿論だ」

 龍野は常夜灯(かなり暗い、橙色の光)に切り替える。

「あら、日本にはなかなかの照明があるのね。このまま……私を食べてもいいわ?」

「!? おい、本気で襲っちまうぞ!」

「いいわ。ただ、乱暴なのは駄目よ。大切なドレスなのだから、私に脱がせてね?」

「ああ……」

 するりするりと、慣れた手付きでドレスを脱ぐシュシュ。下着と、白のニーソックスだけの姿になった。

「さあ。今の私は、まな板の上のこいよ。好きに召し上がれ」

「なら、遠慮なく……っ!」

 龍野は、じっくりとシュシュの胸を味わう。形、柔らかさ、そして付属物。下着越しに、丹念にもみほぐす。

「まだまだね。昨日貴方がいたしたことを、求めたいのよ」

「手順ってもんがあるんだ。念入りにほぐしてから、やってやる」

 下着を慎重に脱がせる龍野。

「あら、慣れた手付きね……当然か。お姉様を相手に、同じことをしているのだから」

「ハッ、光栄だぜ……」

 あっという間に、ニーソックス以外は全て脱いだ状態になったシュシュ。

「さて、続けるか。いや……前言撤回、もうほぐれてるじゃねえかコレ」

「いいの?」

「ああ。さて……いただくか」

「ええ。いらっしゃい」

 龍野が、シュシュを横に寝かせる。

『それじゃあ……遠慮なく』

「ええ。導くわ」

「はいよ。っ……」

「ふあっ……」

「さて……昨日の今日だ、必要無いよな……?」

「うん」

「じゃ、いくぞ。…………」

「はっ、んあっ……」

「…………」

「んっ、んんっ」

「…………」

「ダメ、らめぇ!」

「……何だ? やめるのか?」

「んっ、違うの……『ダメ』とは言っても……!」

「オッケー、わかった。続けるぞ。…………」

「ん、んっ、んはあっ」

「…………」

「ふあぅ、らめ、待って、待っ……」

「…………」

「んんんっ!」

「…………」

「ふあっ、あっ、ああんっ!」

「…………(リネン掴んだな……俺に爪立ててもいいんだぜ?)」

「ああっ、あん……ねえ? 加減、しないで……ね?」

「…………」

「あんっ、そう、そうで、なくっちゃ、あに、ひっ」

「…………」

「んんっ、らめ、そろそろ、げん、かいっ…………!」

「…………」

「ふあああああっ!」

「…………」

「やっぱり、こうで、なく、っちゃ……」

「…………」

「ねえ、あに、ひ?」

「…………」

「あの、昨日と、同じ、ように、してっ」

「…………」

「ふああ、待っ、一段と、凄いのっ」

「…………」

「いいよ、兄卑を、解き、放って……!」


「…………!」


「ふあっ……!(これっ、昨日のとっ、同じっ……!)」

「…………」

「はあっ、はあっ、はあっ……(やっぱり、兄卑、すごっ……)」

「…………」

「はあ……はあ……(全身が、とろけ、そう…………)」

「…………ふぅ」

「うふふ……相も変わらず、ねぇ……」

「これで、俺は……どう、なるんだ……?」

「ひとまず……全ては、終わったのよ。だから、兄卑のしたことも……全部、水に流すわ」

「そうかよ……ありがとな……」

「そうね……まずは、服を着て……ゆっくり、休みましょう?」

「そうだな」

「うふふ……今日は、一緒に寝かせてね。兄卑」

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