二日目 3/5

「嫌です! やめてください!」

「まーそういうなよ、俺達と遊ぼうぜネエちゃん」

「あいつらか……!」

 龍野が様子を伺うと、睦月は男二人にナンパされている真っ最中だった。

「しつこい男性は嫌いです!」

「いいからさ、チャンスくれって。必ず楽しませてやっから」

 睦月をナンパしていたのは、黒髪のメガネ男だ。

「(見てらんねえな……あいつら、恥を知れ)」

 龍野は睦月の側まで駆け寄る。

「おい」

「何だお前?」

「俺はこいつの兄だ」

「ほーん、で? おニイ様が、何の御用で?」

「俺の妹に軽々しく話し掛けるんじゃねえ」

「お? やんのか?」

 茶髪のチャラ男が、龍野を挑発する。

「下がってろ」

 睦月を下がらせると、服の袖を上腕まで捲った。少女の太ももよりも太い上腕が、外気に晒される。

「場所を移してやるか?」

 龍野が切り出す。だが、ナンパ男二人は何も言えなかった。

「お兄ちゃん……(腕、すごいたくましい……!)」

 睦月まで絶句している。龍野は構わず続けた。

「おい、どうなんだ?」

「どうなんだ……って、俺はあんたと喧嘩する気は無いんだ! こいつが……」

「つか、どうするよ!?」

「どうするって、あんな腕の持ち主と喧嘩しても……負けるだろ!?」

「クソ、極上の獲物を前に……!」

 男二人が相談し始める。龍野は警戒を緩めぬまま、睦月に話しかけた。

「触られた以外には何もされてないな?」

「う……うん、お兄ちゃん」

「つーか、突然俺への呼び方が変わってびっくりしたぞ」

「びっくりしたのはこっちだよ……どうしてそんな腕を持ってるの?」

「おい、口調まで変わってるぞ」

「仕方ないでしょ、こんな場所でいつもの口調だと怪しまれるしっ!」

「で、腕か。そりゃ、毎日鍛えたからに決まってるだろ!」

「「!?」」

 ナンパ男二人が揃って驚愕する。

「それでどうすんだ? やんのか、やらないのか?」

「おい、やめとけよ!」

「やんねえよ! クソッ……覚えてろ!」

 二人がそそくさとその場を去る。それを確認した龍野は、アイスクリームを売っている店に向かった。

「何とか追い払ったな。無事で何よりだ」

「……」

 睦月は何も言えなかった。龍野の体格が、威圧感が、そして何より『兄』としての頼りがいといった魅力が全身から溢れていたせいで、呆然としてしまった。

 早い話、龍野の気迫にアテられてしまったのだ。

「アイス、食うか?」

「う、うん!」

「何を頼んでもいいぜ。その為に財布も持ってきた。さ、どれにするんだ?」

「えっとね……」

 アイスを注文する睦月は、半ば上の空であった。

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