一日目 4/4

「やってみなさい! 最初はグー……」

「じゃんけん、ポン!」

 結果は、龍野がパー。シュシュもパー。

「あいこでしょ……!」

 シュシュが、終わってくれとばかりに叫ぶ。

 しかし、両者グー。またあいこである。

「あいこでしょ……!」

 龍野が、勝たんと叫ぶ。

 しかし、両者チョキ。またまたあいこである。

「あいこでしょ…………!」

 二人が同時に叫ぶ。

 結果は…………シュシュがチョキ。龍野がグー。

「よ……よっしゃあ!」

「嘘……。読みが、外れちゃったの……?」

「これでりんごゼリーは俺のものだ! 残念だったな、シュシュ!」

「くっ……!」

 シュシュが泣きそうな表情で部屋を出る。

 残った龍野は、一人勝利のゼリーを味わうのだった。


「うっ……負け、ちゃった……」

 その後、シュシュは風呂で泣いていた。

「けど……勝負だから、仕方無いよ、ね……」


「シュシュちゃーん? いるかしら?」


「何でしょう……お母様?」

「龍野が食べたりんごゼリー、貴女の分もあるわよ。お風呂上がったら、リビングにいらっしゃい」

「! お母様……!」

「ゆっくりでいいわ。ゼリーは逃げないわよ」

 シュシュは笑顔になり、すぐに風呂から上がった。


「ああ、これですわ! 私が食べたかった味は!」

「うふふ。気に入って何よりよ」


 話は十分前に遡る。

「ちょっとって……お前、コンビニまで行く気か!?」

「すぐそこでしょ? ちょっとした散歩よ」

「いやそうだけど! ああ、俺も行く!」

「うふふ。ありがと、龍範さん」

「全く、お前は時々俺の肝を冷やすよな!」

「あらあら。そんなつもりじゃないのに」


 龍範と一緒にコンビニに行っていた紗耶香は、どちらかが負けたときに備えて全く同じゼリーをもう一つ買っていたのだ。


「ああ……ごちそうさまでした!」

「うふふ。それじゃあシュシュ……いえ、睦月。龍野と仲直りしなさい」

「ええっ!? お母様!?」

「もうゼリーで喧嘩しない、って言ってきなさい。何なら私も立ち会うわよ?」

「いえ! 私一人で大丈夫です!」

「あら。なら心配無いわね。あの子は自分の部屋よ。貴女の隣の部屋ね」


 シュシュは半ば強引に紗耶香に誘導され、龍野の部屋の前にいた。

 恐る恐る、トントントンとノックをする。

「誰だ?」

「睦月よ」

「シュシュでいいだろ」

「気に入ってるのよ」

「へいへい、シュシュ」

「もうそれでいいわ、貴方はね。それで、入れてくれるのかしら?」

「ああ、勝手に入れ」

「お邪魔するわ」

 ゆっくりとドアを開け、部屋に入るシュシュ。

「あのね……」

 入るや否や、口火を切った。

「何だよ?」

「さっきは、ごめんなさい……」

「ん? ゼリーのことか?」

「ええ。私のワガママで振り回してしまって……」

「それにしては、お前からりんごの香りがするな?」

「実はね……。お母様が、新しくゼリーを買ってきて下さって……」

「なんだ、それならいいじゃないか。俺は別に気にしてないぜ?」

「本当?」

「ああ、本当だ。話はそれだけか?」

「ええ」

「なら、歯磨き忘れんなよ。あといつもの悪態はどうした? 『兄卑』って呼んでくれないと、寂しくてしょうがねえや」

「クスッ……」

「どうした?」

「歯磨きくらいちゃんとしてるわ、バカ兄卑!」

「やれやれ……お休み!」

 シュシュは上機嫌で龍野の部屋を去って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る