ユキノシタのせい


 ~ 十二月四日(月) 一~二時間目 地理、現代文、英語Ⅰ ~


   ユキノシタの花言葉 無駄


 通学中模試の結果は60%。

 だというのに、本番が始まってしまった。

 そんな崖っぷちに立ちながら、テスト直前までいつもと変わらずお昼ご飯の心配をしていた大物は、藍川あいかわ穂咲ほさき


 午前中でテストは終わるけど。

 確かに毎日ご飯を作ることを了承したけども。

 君の中の優先順位はどうなっているのでしょう。


 今日は、軽い色に染めたゆるふわロング髪をサイドで束ねて。

 そこに沢山のユキノシタが咲いている。


 上に開いた三枚の花びらに赤い妖艶な模様が浮き上がり。

 その下に大きくて真っ白な二つの花びらをつける不思議で綺麗なユキノシタ。


 でも、ゆっくり眺めている場合ではありません。

 だって今は試験中。

 横を向いたら立たされるどころか、落第にされちゃいます。



 しかしさっきから気になって仕方ない。

 俺だっていつも赤点すれすれなのに。

 頑張らなきゃなのに。



 ころころころ。



 さっきから、不穏な音がひっきりなしです。


 でも、テスト中に話すことも確認することもできないし。

 お前、地理がほとんど選択だからってそれは無いです。


 そんなこんなで集中を欠いていたので。

 テスト終了のチャイムと共に、不安な気持ちでテスト用紙が回収されました。


「ちょっと勘弁してください。集中できません。……まるっきり運頼り?」

「半分は自分で分かったの。後の半分は、道久君が教えてくれなかったの」

「そんなバカな言い方あるかい」


 なるほど、それなら50点は確実なんだね。

 残り半分、鉛筆ころころが10点分稼いでくれてればいいんだけど。


「不安だなあ」

「終わったことを気にしたら、この後全力を出せないの」

「……ほんと、たまーに君の事を尊敬するよ」

「いつも尊敬するの。敬うの」


 穂咲の言った通りだ、気持ちを切り替えよう。

 もっとも、いらいらカリカリしている原因は君にあるんだけどね。


 深呼吸して心を落ち着かせていたら、担任の先生がテスト用紙を抱えて教室に入って来た。


 せっかく落ち着いたってのに。


 なぜだろう、試験中でも平気で立たせそうなあなたを見ていたら、不安で落ち着かなくなってきました。


 現代文のテスト用紙が裏向きに配られて。

 そして先生の合図でぺらりとめくる。


 うげ、これはきつい。


 ……全問、筆記。

 漢字が苦手な俺としては、小さなところで減点されまくるに違いない。


 焦る。

 焦る。


 でもそんな時、ふとさっきのやり取りを思い出した。


 リラックス。

 落ち着いて。


 文字数制限のある長文は、分からない漢字を回避しながらなんとか埋めた。

 ことわざの意味は、何故か頭にイメージが残ってて全部解けた。

 ……そのイメージ映像の全てに目玉焼きが現れたことは気にしない。


 そんなこんなで解き進めてみたけども。

 半分くらいが埋まったところで筆が止まる。


 こりゃあ厳しい。

 選択問題が一つも無いから、勘に頼ることもできない。


 ……穂咲もきついだろうなあ。

 現代文の範囲は、二人一緒に勉強したせいだろう。

 お隣のペンの音が、俺とほとんど同時に止まってしまった。


 諦めるな、リラックス。

 なんとか絞り出せ。


 祈る想い。

 それが通じたのだろうか。


 お隣から、再び鉛筆の音が鳴り始めた。



 ころころころ。



「そっちかい! てか選択ないから無駄っ!」

「秋山、気持ちは分かるが突っ込むな。立たせるわけにいかんのだから。……すごく立たせたいけどな」


 最後の余分な一言はなんなのさ!

 突っ込みたい気持ちが余計煽られる!




 結局、二人のおかげでまったく集中できなかった。


 その怒りをテスト終了と同時に爆発させたら、次のテストまでの10分間、廊下に立たされることになってしまった。


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