1話 話が違う
目の前は一面の原っぱだった。自分の腰位ある草がはえた草原がどこまでも続いている。木は、生えていない。家も見えない。人も、いやそれどころか、動物すらいない。いや、それより何千倍も問題なのは、
「崖…。」
360°、遥か遠くまで目を凝らしても到底上にはたどり着けそうにないほど高い崖に囲われた土地に自分は立っていた。なるほど、これが異世界か、って、
「いや、納得してる場合じゃない。」
これはないだろ。これが始まりの町な訳もないだろ。とりあえず、ここから出て人を探さなければ。とりあえず、一番近そうな崖を目指して歩くことにした。大丈夫、険しそうに見えるけどきっとどこかに登れるところがあるだろう。ただ、問題は。
「ゲームしてた時の格好そのままかよ。」
今の装備は家でごろごろする用のくたびれたジャージで裸足。武器なんてものもない。
「はぁ。」
ため息をつき僕は歩き出した。
一時間ほど草を掻き分け道なき道を歩き崖の前についた。
「岩の壁だ…。」
期待はあっさり裏切られた。どこにも昇り口はない。どうする。ふと、腕にはめた腕輪が目に入った。なんだ、楽に脱出できる方法あるじゃないか。しかしどうやって使うんだこれ。とりあえず、それっぽい腕輪にはまった赤い宝石を押した。すると、
「…私だ。」
腕輪から声が返ってきた。
「えーと、さっき転移させてくれた方?」
「そうだ。」
声は答える。
「えーと、あのーここどこですか?まさかここがはじまりの町ってわけないですよね?」
と聞いてみた。
ボソッ…。
「えーと、あのー聞こえないのですけど…。」
何かもう嫌な予感しかしないんですが。そんな俺の予想を裏切らず、
「私にもわからんっ!!!」
しばらくたってから、大声が響いた。え、そこ開き直るの?今検索中だとか言い訳もなくそう言っちゃうの?呆れて言葉が出なかった。しばらくたってテンパる気持ちをおさえ聞く。
「な、なるほど。えーと、でもほら帰ることはできるんですよね?」
せめて、少女とあった空間に戻ることができれば後は…まぁ帰してくれるだろう、うん。もう探索とかどうでもいい。とりあえず、いつもの自分の部屋に帰りたい、あ、カップラーメンそのままだ…伸びてるな…うわぁ…
「…。」
「お願いします。何か言ってください。」
僕が全然関係ないことに思考を巡らせている間、少女は何も言わず沈黙を保っていた。そして、
「ごめん無理。」
にべもない返事が返ってきた。そうか無理なのかーまぁそうだよなー
って、
納得できるかぁっっっ!!!
「何それ、片道切符っすか!?投石機だけに投げたらそれで終わりってことっすか!!?」
腕輪に向かって全力で叫ぶ。
「いやー、あのな。場所がわかっとったら戻してやれるんだがなー。今の状態では…。」
あはは、と乾いた声をたてながら少女は言う。
「いや、てかそもそも大丈夫っていったじゃないっすか!なんでこんなとこ飛ばされねばならんのですか!」
「あー…それについては、こちらの責任です。慎んでオワビモウシアゲマス…。」
「棒読みの謝罪はいいから理由を言えよっ!!」
盛大に突っ込んだ。というかもうそうせざるをえないくらいのまるでロボットみたいな棒読みっぷりだった。
「えっとですね…。」
僕の言葉に少女が恐る恐るといった風に切り出す。
「はい。」
「座標を固定する機械が壊れてた☆」
ってなんだそりゃ!?何が「壊れてた☆」 だよ!どうすんのこれ帰れないじゃん!終わったじゃん!
「一生ここに閉じ込められるのか…。」
果たして何日生きられるやら…。そんな僕の考えを打ち砕くように
「安心しろ!方法はある!」
少女は力強くそういった。
「何ですか、そっちからはどうすることもできないんでしょ?」
ってさっきそういってたよな、そう思いながら聞いた。すると。
「ふふふ…。」
いや、もうその笑いいいんで早く教えてください。
「おほん、お主1つ忘れてるな。ここは異世界だぞ?」
いや、それはわかってるけど。こんなとこ日本にあったら困るんだけど。
「あるじゃないか!魔法と言う奥の手が!」
奥の手なんだ…。しかも助けられないと言うことは。
「つまり自力で魔法習得して脱出しろと?」
「うむ、そうだ。風魔法かテレポート系の魔法を覚え、町があるとこまで行ってくれたら私も助けることができる!」
うん、まぁそうなんだろうけど。
「というか、逆を言えばそうでもしてくれんと私も何もできん!」
おもいっきり言い切られた。はぁ、仕方ないのか。頑張るか。
「わかりました、じゃあせめて装備送ってもらうことできます?」
石ころの転がる道なき道をさ迷い続けたせいで裸足の足は傷だらけだった。武器は我慢するとしても、せめて靴はほしいのだが。
「いやぁ、ほら座標わからんからな。送ることもできんのよ。」
「鬼か」
思わず言葉が漏れた。
「いっいや、私だって精一杯がんばっ…」
「どこが。」
「…。」
プチッ
しばらくの沈黙の後、通話が切れる音が響いた。腕輪のボタンを押すが応答はない。
「嘘だろ…。」
異世界からの脱出方法は? 風音 @Kazane0729
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界からの脱出方法は?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます